産業構造改革や少子高齢化、経済・社会のグローバル化、国際競争力の視点などから、最近は官民を挙げて「イノベーションによる生産性向上」が共通のテーマになっている。特にイノベーションの重点領域には、GDP(国内総生産)の70%、就業者数全体の67%を占めるサービス産業(ここでは2003年の第3次産業の割合)が位置づけられ、「サービス・イノベーション」が産業と社会の重要な基本戦略として検討され始めている。

 サービス産業の労働生産性は米国を100とした場合に、日本は60程度にとどまり、国内の輸出型製造業の120と比べても差が大きい。労働生産性全体の日米ギャップも1995年以降は米国の100に対して日本は71程度で停滞している。同時にGDPの伸び率や国際競争力の低下、IT(情報技術)投資効果のGDP貢献度の停滞なども、この期間に共通する現象だ。

 労働生産性が停滞している背景には、サービス業が置かれた国内環境での市場開拓や効率化、業務プロセス革新やIT活用の遅れが指摘されている。95年以降は特に中小企業全体の労働生産性の落ち込みが激しく、サービス・イノベーションは日本の企業全体の緊急課題にもなっている。

 サービス・イノベーションの議論は、こうした共通認識の深まりから始まってはいるが、さらに一歩踏み込んで、サービスとは何か、イノベーションとは何のためかを考える視座から取り組むことが重要である。

 労働生産性そのものも、「名目GDPを(労働者数×就業時間)で割った数字」であり、それ自体が企業の収益性や生産効率を表すものではない。そうしたなかで分母だけに着目すれば、効率第一主義になりがちである。

 だが、もっと分子のほうに注目すれば、GDPの拡大は新しい付加価値やサービス、品質の創出を意味し、新しい社会が求める多様な価値の充足や産業と行政、社会の新しい枠組み、参加交流型の共生社会への展望を開くものになる。

 そもそもサービス・イノベーションはなぜ必要なのかと問われれば、筆者は上の図に示すような新たな「価値社会」を実現するためであると考える。本来サービスとは提供者側の提案にとどまらず、生活者側の期待値をどれだけ満たすかで考えなければならない。

 同時に、生産性は単なる労働生産性ではなく、「労働生産性と品質・サービス・満足度」の視点で表現されるべきであり、願わくば企業の従業員満足度まで含めた総合評価であってほしい。そして、これらを支える新しいIT活用も不可欠だ。