靴下・ストッキングメーカー大手の福助(東京・渋谷)の再生請負人として有名なのは、「伊勢丹のカリスマバイヤー」だった藤巻幸夫だ。2003年6月に民事再生法の適用を申請したこの老舗企業を、わずか1年半ほどで再生軌道に乗せた。だが再生の舞台裏には、もう1人、キーパーソンがいた。現社長の吉野哲である。剛の藤巻、柔の吉野の役割が、新旧勢力を1つにまとめ士気を真に高めた。(文中敬称略)<日経情報ストラテジー 2007年2月号掲載>

プロジェクトの概要
 藤巻と吉野は、百貨店大手の伊勢丹で1982年入社の同期だった。とはいえ親交が深まり出したのは、2人が伊勢丹を飛び出した2000年から。そして2004年春、サザビーリーグの出資を受けて起業していた吉野を、藤巻が口説き落とし、福助に招いた。当時の藤巻は、ファンド会社にヘッドハントされて福助の社長となり、一躍時の人となっていた。それから1年後、盟友に後を託した藤巻は福助の表舞台から去り、活躍の場をイトーヨーカ堂に移した。

 2006年12月現在、福助の業績は勢いづいてきた。2007年1月期は売上高約340億円で増収増益の見通し。株式上場も視野に入る。社員に聞くと、福助の社内に強い一体感が出てきたのはこの1年くらいという意見が目立つ。藤巻が巻いた無数の種を選りすぐり、吉野が丹念に育て上げたのだ。福助は世界最大の総合レッグファッションメーカーを目指す。

顧客起点の発想を社内に根付かせるためにオープンした、福助の直営店の1つ「Calzalone」。左下は、2006年11月末に開催した人気モデルとのコラボレーション製品の発表会 (写真:新関雅士(上)、山西英二(左下))

 「いつの間にか社内に机があったが、肩書きがない。そんな時、『ストッキングのことで教えてほしいことがあります』と声をかけられた。でもすぐに『この人は話が通じる』と感じて、ちょっとタガが外れたぐらい話し込んだ。たくさんグチを言ってすっきり。本当に聞き上手でした」。後に新生福助の象徴となる製品を考案した商品本部レディスレッグディヴィジョン・ストッキング課長の東貴生は、吉野哲(さとし)の第一印象をこう語る。

 再生途上にあった福助の社長職を、藤巻幸夫から引き継いだ吉野の社内の評判はすこぶるいい。尊敬と反発の念が入り交じる藤巻とはやや対照的だ。「吉野さんはいろんな部署の人にヒアリングし、戻ってきてまた話をする。全体のつながりをすごく意識してる。藤巻さんはどんどんしゃべって、話をするタイミングを与えてくれない。でも、そうじゃないと社員の意識は変えられなかったと思うし、あんなにバイタリティーと行動力を持った人はいない。人脈もすごい」と東は評する。

 創業120年を超す福助は2003年6月、民事再生法の適用を申請。再生作業は10月に始まったが、初年度は計画通りの業績成果が出ず、社内に不協和音も目立った。しかし1年ほど前から組織に前向きで強い一体感が出てきた。次々と新製品も投入し、今期は増収増益を見込む。