経営者にとって、情報システムは頭痛の種になりがちだ。業務に必須だが投資に見合った効果が出るとは限らない。ほかの設備投資に比べて専門的で難解でもある。

 野村総合研究所で約20年間勤務した後に、人材派遣大手スタッフサービスのCIO(最高情報責任者)を務め急成長を支えた著者が、ベンダーとユーザー両方の視点から、“システム屋”の思考回路と、上手な付き合い方を説く。

 前回(第7回)では、私が“システム屋”と呼ぶITベンダー・システムインテグレーターが、業種ごとの組織体制とは異なる組織体制を作れば、従来とは異なる可能性が広がるのではないかということを説明しました。例えば、食品卸や証券会社、人材派遣会社などは、業種は違っても“仲介業”という業態で見れば同じです。互いのノウハウ・価値観を共有できる可能性があるのです。

 ただし、一見“仲介業”に思えて、価値観が違うということもあります。私が経験した事例を挙げましょう。

 私は最近、企業のM&A(合併と買収)を仲介する企業で、案件管理と顧客管理のための情報システム整備にかかわりました。

 企業あるいは企業内の事業を売りたいと考える人・組織があって、同時に、企業あるいは事業を買いたいと考える人・組織が存在します。この売り手と買い手を仲介する事業ですが、証券会社や卸売業とは一味違った仲介業です。

 この企業が数社のシステム会社に、どういうシステムを作るべきかの提案を求めた時のことです。「M&A仲介」という業種が既に確立しているわけではなく、このためのシステムを作ったことがある人はあまり存在しません。だから各システム会社は、ほかの仲介システムを基に作ろうと考えました。

 その中に、「遺失物管理システム」を基にしようと考えたシステム屋たちがいました。遺失物管理システムは、鉄道会社や警察などで導入されています。

 「電車の中に傘を忘れました」という人がいる一方で、「電車の中に傘が置いてあるのを見つけました」と届け出る人がいる。置き忘れた人=求める人であり、すなわち買い手に当たる。一方、見つけた人=売り手に当たる。傘=見つけたものであり、これが売却あるいは買収対象の事業に当たる。従って、遺失物管理システムはM&A仲介のシステムとよく似ている、と。