「据置型テレビ向け番組とは違う番組をワンセグで視聴できます」──。NHK(日本放送協会)は2009年4月6日に,ワンセグ独自の番組を放送する「NHKワンセグ2」を開始する(発表は2009年2月18日)。放送時間帯は平日の昼と深夜および土曜日の午後で,放送時間が5~15分の番組を放送する。民放キー局など一部の地上放送事業者は既にワンセグ独自の番組を放送しているが,実験的な意味合いが強く,いずれも期間限定の試みにとどまっていた。NHKは民放キー局に先駆けて,継続的なワンセグの独自放送に乗り出す。

 これに先立ち東京メトロポリタンテレビジョン(TOKYO MX)は2008年6月に「ワンセグ2サービス」を開始した。このサービスは,ワンセグに使っている1セグメントを切り分けて,二つの番組を視聴できるようにするサービスである。TOKYO MXは,据置型テレビ向けに一部の時間帯でSDTV(標準画質テレビ)の番組のマルチ編成を行い,二つの番組を視聴者に提供している。ワンセグでも視聴者にこの二つの番組の提供を可能にした。

 このようにNHKとTOKYO MXはともに自社が提供するサービス名にワンセグ2を使っているが,両社が提供するサービスは内容が異なる。NHKがワンセグ独自の番組を放送するサービス名称としてNHKワンセグ2を採用することを知ったTOKYO MXは,自社のサービス名称の一部であるワンセグ2という表現を採用する理由をNHKに尋ねた。すると,「『地上デジタル放送ではNHKの教育テレビのチャンネル番号に第2チャンネルが全国で使われているため,NHKワンセグ2をサービス名にすることにした』という説明を受けた」(TOKYO MXの幹部)という。

 TOKYO MXとしては同じような名称のサービスが提供される以上,NHKが自社と同じ内容のサービスを提供して欲しいという思いがあった。同社はその時点でワンセグ2の商標登録をしていなかったこともあり,当事者同士の交渉で解決策を見出そうとした。TOKYO MXはまず,NHKの運営サイトにTOKYO MXが似たような名称のサービスを提供していることを知らせる記述を掲載して,同社の運営サイトへのリンクを張ることを要望したが,この話はまとまらなかった。

 この代替案として浮上したのが,放送事業者などが参加する業界団体であるデジタル放送推進協会(Dpa)の運営サイトの活用である。具体的な内容は,Dpaの運営サイトのワンセグの解説コーナーに「ワンセグ2サービス」に関するWebページを追加するというものだ。DpaのWebサイトでの情報提供によって,ワンセグ端末のユーザーにNHKとTOKYO MXのサービスの違いを周知する狙いである。これに対してTOKYO MXは,放送事業者同士の争いが長引くのは良いことではないと判断して,NHKの提案を受け入れることを決めた。ただし,「NHKのコールセンターに当社の『ワンセグ2サービス』に関する問い合わせが来たときに案内をするぐらいの対応はして欲しい」という声がTOKYO MXから出ている。