写真●ジョー・マラスコ氏
写真●ジョー・マラスコ氏
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 「優秀な若手が一生懸命に働く。しかしプロジェクトは成功を収めることができず,若手は結果的に燃え尽きてしまう。その責任はプログラマやエンジニアよりもマネジメント側にある。長い間,マネジメントを何とか変えようと考えてきたのは,能力の高いエンジニアを失うのが大きな問題だったからだ」。

 ゆっくり,力強く語るのはジョー・マラスコ氏(写真)。長年ソフト開発の現場を経験し,米ラショナル・ソフトウェア(IBMに買収)の幹部を16年以上務めた。IT業界に35年以上在籍し,ソフトウエア開発プロセスやプロジェクトマネジメントについて思考と実践を重ねてきた同氏の言葉を紹介したい。

 10年から20年前と比べて,優秀な人がこの業界に来なくなっている。この問題は日本と米国で共通している。この業界こそ,どの業界よりも優秀な人に来てほしいと望んでいるにもかかわらずだ。なぜ若い人が来ないかを問う必要がある。

 日本では「IT業界は学生に人気がない」と言われている(関連記事)。実は同じことが米国でも起こっているとマラスコ氏は指摘する。なぜ,国を問わず人気が低下しているのか。その前に同氏は,昨今の情報システム開発がますます難しくなっている点を挙げる。

 ソフトウエア開発の課題は年とともに難しくなっている。システムの規模は大きくなり,機能は複雑化している。求められる品質のレベルも高くなっている。しかも,開発サイクルは短期化している。2年ごとが1年ごとになり,さらに年に数回リリースすることが求められている。

 もちろん,優れた開発プロセスやツールが存在しており,それらの改良も進んでいる。それでも「プロジェクトを進めるうえでの問題はより大きくなっている」とマラスコ氏は話す。「アウトソーシングやオフショア開発で解決しようという単純な発想を持つ人もいるが,それだけでは問題を解決できない」。

 この問題に立ち向かうには,「優秀な人材を迎え入れ,その人材を育てる環境が必要になる」とマラスコ氏は主張する。ここで,「そもそも若手が来ない」という日米共通の問題点が浮上するわけだ。

プロジェクトの“失敗”を強調する文化からの脱却

 その大きな理由としてマラスコ氏が挙げるのは,プロジェクトの“失敗”を強調する文化(カルチャー)だ。

 システムを新規に開発するとき,多くのプロジェクトで納期が遅れる,コストが予算をオーバーするといった事態が発生する。すると,そのプロジェクトは“失敗”であるとの烙印を押される。厳しい労働を長期間続けた結果が「失敗」として扱われてしまう。

 マスメディアも,プロジェクトの失敗は扱っても,成功例はなかなか取り上げない。これは不公平で,悲しいことだ。「この業界はどこかおかしい」と宣伝しているようなものだ。

 その結果,何が起きるか。若い人の「燃え尽き(バーンアウト)」だ。献身的で,まじめに仕事をして,真のプロフェッショナルとしてこれから活躍すべき人が,成功を収めることができず,結局燃え尽きてしまう。「そんな先輩の様子を見たり聞いたりしている学生が,この業界に来ることをためらうのは自然なことだ」。

 マラスコ氏はこうした問題を解決するカギはマネジメントにあると主張する。

 若い人がIT業界にもっと入ってくるようにするには,「プロジェクトの成功」を外に向けて言っていかなければならない。あなた方ジャーナリストも,もっと成功を報じなければならない。

 そのためには「成功する文化」を作り上げる必要がある。解決すべき問題はいろいろあるが,「第一歩となるのはマネジメントの質を上げることだ」。