私が担当している情報システムの企画や開発、運用などの業務は、パタゴニアが提供する衣料品の世界戦略を支えるだけではなく、環境を重視する当社の使命と深く結び付いている。

 パタゴニアの使命は、「最高の製品を作って、環境に与える不必要な悪影響を最小限に抑える。そして、ビジネスを手段として環境危機に警鐘を鳴らし、解決に向けて実行する」ことだ。1996年から農薬を使わないオーガニックコットンを綿製品に100%利用し、社内や店内の照明に気を配り、顧客に包装を最小限にする協力を求めている。

IT駆使して企業姿勢を理解してもらう

 IT(情報技術)についても、環境に配慮するという当社の使命に沿って、廃棄物を少なくするように極力努めている。米国内では社員が自宅で使わなくなったパソコンやプリンターを回収して地域の学校や病院に寄付している。ソフトウエアの更新は戦略的に必要だから最新のものを導入するが、パソコンなどのハードウエアは例えば3年ごとに切り替えるのではなく、なるべく7年くらいは使うようにしている。

 1995年にインターネットが広く使われ始めるようになった際、パタゴニアへ転職。入社後はまずウェブサイトで会社や商品の紹介を始めた。それから2005年までに4回のデザイン更改をしたが、当社のサイトには2つの大きな狙いがある。

 1つはほかのアパレル企業と同じように、今シーズンの商品に焦点を当てることだが、もう1つ重要なのは、環境に焦点を当てたパタゴニアという企業の「ストーリー(物語)」を伝えることだ。

マイク・ブッシュ氏
マイク・ブッシュ氏
登山家イヴォン・シュナイダーが登山家のウェアを販売する会社として創立。アウトドア衣料品が特徴。88年に日本進出。本社はカリフォルニア州ベンチュラ市にある。写真右下は本社玄関付近

 当社サイト内の「Footprint」という定番コーナーでは、製品がデザインから納品に至るまでに地球環境にどのような足跡(フットプリント)を残しているかについて紹介。完成品になるまでに排出した温暖化ガスの量、エネルギー消費量、製造に関係した地域の様子などを分かりやすく伝える。

 また、「Cleanest Line」という社員と各種コミュニティー、顧客を結ぶブログも展開中だ。製品の機能やデザインについて「(山登りをしていて)命を救ってくれた」というような顧客からのコメントを受けると同時に、製品品質についての質問をきっかけに製品の環境配慮をさらに進める。

 最新コーナーは「環境に投票を」だ。これは、米国の大統領選挙と上院・下院議員選挙に際し、立候補している政治家一人ひとりを環境関連法に対する行動内容によって得点を付けるというもの。当社らしい情報を提供できたと自負している。

 自社サイトは製品を売るだけの場ではなく、顧客との対話やコミュニケーションの場に育つように心掛け、少しでも多くの人に当社の環境への取り組みを理解してもらえるよう努めている。

 さらに、取引先企業と共同で使う業務用のウェブサイトも、コミュニケーションこそが重要な要素となる。パタゴニアは工場を持たずに契約工場に生産を委ねているので、製品情報を正確に伝えるために契約工場やディーラーとの密接な連携も必要だ。このため、契約工場向けとディーラー向けのサイトを別々にデザインし、パスワードでログインして日々情報を共有できるようにしてある。

 契約工場向けサイトは、製品のデザインや規格についての情報を正確に伝える。ディーラー向けサイトは、シーズンカタログや製品情報を提供するほか、注文や販売の実績データをやり取りする場にもなっている。

 もっとも私にとってみれば、1996年に完成したネバダ州の配送センターこそが入社して以来初の大型プロジェクトだった。手作業だった製品の選別や梱包の過程を機械で完全に自動化した。その結果、製品発送の正確度は90%も向上し、作業時間と作業コストの大幅な削減につながった。

 現在手掛けているのは、カリフォルニア州にある本社とネバダ州にある配送センター、神奈川県鎌倉市にある日本法人などに個別に設置してある情報システムを、グローバルに統一した1つの情報システムにするためにERP(統合基幹業務)パッケージを導入するプロジェクトだ。着手したばかりだが、財務・販売管理・生産・在庫管理・予測管理を世界でシームレスなものにする。導入は2009年7 月からで、2011年7月に完了する予定である。

マイク・ブッシュ氏
米パタゴニア グローバル・ディレクター・オブ・テクノロジー
カリフォルニア州出身。大学では情報システムを専攻。企業のERP(統合基幹業務)パッケージ導入を支援したり、社内アプリケーションの開発を支援したりするITコンサルティング会社を設立・経営した後、1995年にパタゴニアに転職した。サーフィン、スキー、釣りが趣味。