写真●岡田 壮祐氏 ジュピターテレコム 情報システム本部長兼IT推進部長
写真●岡田 壮祐氏 ジュピターテレコム 情報システム本部長兼IT推進部長
(写真:海老名 進)

 最近のITベンダーは、一見きれいで見栄えのいい提案資料を持ってくることが増えた。社内で提案資料や営業ノウハウの共有が進んでいるのだろう。

 だがその一方で、提案の中身がどんどん画一的になっていると感じる。「この図は、何かの雑誌で見かけた」「顧客向けセミナーの資料を、丸ごと転載しただけではないか」と思える提案書を目にすることもある。

 こうした提案書を目にしても説得力は感じない。この担当者に仕事を任せたい、という気持ちにもならないのだ。

 ノウハウや資料を社内で共有することが悪いと言っているのではない。提案の材料が簡単に手に入る環境に甘えて、自分自身で料理しようとしていない姿勢を問題にしているのである。

 我々が一番知りたいのは「このソリューションを導入すると、当社のビジネスにどんな効果があるのか」「現在のシステム環境にどう適用すればいいのか」という情報である。こうした情報を提供するため、ITベンダーの営業担当者には、当社の業務やシステムの現状や課題を、当事者になったつもりで考えてほしいのだ。

 最近のITベンダーに足りないと感じるものはほかにもある。新しいことに挑戦しようという気概である。当社が2008年に開始した基幹システムの刷新プロジェクトでも、このことを感じた。

 当社は課金管理や顧客管理、工事の進捗管理などを含めた基幹システムを構築するに当たって、SOA(サービス指向アーキテクチャ)を採用することを決めた。「将来に備えて、ビジネス環境の急速な変化にも柔軟に対応できるITインフラを、整備していく必要がある」と考えたのである。

 放送事業や通信事業を手掛ける企業で、課金システムまで含めてSOAベースで構築したケースはほとんどない。当社の情報システム部門も手探りの状態だった。だからこそ、SOAベースのシステム構築経験があるITベンダーの提案力に期待していた。

 だが現実は違った。「まずネットワークなどインフラ整備を優先させるべきです」「仮想化技術を使ってサーバーを統合しましょう。それにはサーバーの入れ替えが必要になります」。多くのITベンダーの営業担当者の提案は、手堅いものばかりだった。

 現行の基幹システムは稼働して10年以上経っており、何度となく追加開発を繰り返してきている。当社が基幹システムを全面的に置き換えるのは、開業以来初めてのことだ。

 多くのITベンダーは、SOAの基幹システムをゼロから開発するのはリスクが大きい、と判断したのかもしれない。だが当社から見れば、どの提案も似たり寄ったりで、決め手に欠けるものだった。

 この案件は結局、現行の基幹システムを開発したITベンダーに任せることを決めた。「SOAを採用してシステムを開発する」という当社の要望に合う提案内容だったこと、システムを移行する際の具体的な方策を示していたこと、などが理由である。

 前例のほとんどないシステムの開発だから、ある程度のリスクを取るという覚悟で臨んでいる。当社に限らず、画一的なソリューションを提案するだけでは、顧客の心をとらえることは難しいだろう。ITベンダーは、このことを強く意識するべきだ。(談)