やや地味な印象のあるテープ・ストレージだが,技術革新のスピードはハードディスク・ドライブ(HDD)を上回る面もある。一方,HDDの容量単価が下がってきた影響を受け,これまでテープの独壇場だった分野でHDDを使う動きもある。こうした現状を踏まえ,テープの利用法を正しく理解するために,その基礎と最新のスペックをひも解いてみよう。なお,本講座は2006年に公開した「【初級】知っておきたいストレージの基礎」を基に,2009年の状況に合わせて加筆・修正した改訂版である。

吉岡 雄
日本クアンタム ストレージ

 企業が保有する全ストレージ領域の70~80%を占めているのは,アクセスが非常に少なくなったデータである---。本連載の『急上昇する記憶容量,進化するストレージ(後編)』で解説したように,データのライフサイクルに合わせて,利用するストレージを最適化する必要がある。ILM(Information Lifecycle Management)において「コールド領域」と呼ばれる,上記のような大量データを格納するには,容量当たりの単価が低く,かつ保存の観点からメディアがリムーバブルな「テープ・ストレージ」が必要とされる。テープ・ストレージには非常に多様なタイプがあり,用途に合わせて選択できる。

 一方,ハードディスク・ドライブ(HDD)の容量単価の減少は続いている。バックアップ用途などではテープの代わりに利用されるケースが増え,「テープは過去のもの」と考える技術者も多いのではなかろうか。そのため,「どのタイプのテープ・ストレージを選ぶべきか」という問題とは別に,性能やコストの面では「テープとHDDのどちらを選ぶか」という視点も重要になってきた。こうした状況を踏まえて,3つのポイントからテープ・ストレージの内部構造や最新のスペックを解説していく。今回は「記録方式と互換性」に焦点を当てる。

オートローダーやライブラリが人気

 まず,テープ・ストレージの基本を確認しておこう。テープ・ストレージとは,磁気テープを記録媒体として使用した装置の総称である。記録媒体のテープは,「カートリッジ」と呼ぶ保護ケース内の軸(リール)に巻き取られている。

 テープを読み書きする装置は「テープ・ドライブ」だ。カートリッジ内のテープを走行させ,磁気ヘッドでデータを読み書きする。

 テープ・ドライブはスタンドアローンでも利用できるが,最近は複数のカートリッジ・テープを収納する棚(スロットまたはセル)とドライブ内のテープを自動交換するロボット機構を備えた「オートローダー」や「ライブラリ」(写真1)の人気が高い。大容量のデータを手間なく管理できるためだ。

写真1●ライブラリの内部
写真1●ライブラリの内部
6台のテープ・ドライブ(写真中央)の周囲に多数のカートリッジ・テープが収納されている

 テープ・ストレージの用途は,今のところ大部分がデータのバックアップ用だ。保管に適したリムーバブル・メディアの特徴が生かされている。今後は個人情報保護法やe-文書法の施行により,各種ログ・データや法定保存文書を長期保存するアーカイブ用途で利用拡大が見込まれている。

◆ポイント(1):記録方式と互換性

 テープ・ドライブはHDDと異なり,各種の規格がある。それらを用途別にクラス分けすると表1のようになる。記録容量や性能以外の仕様にも注目してもらいたい。

表1●テープ・ドライブの分類
用途に合わせて,最適なテープ・ドライブを選択する必要がある
製品クラス概要規格/製品例
エントリースタンドアロン向け。ワークステーションやサーバーに内蔵されていることもある。低い負荷サイクル(2~3時間/日)を想定し,低価格で提供される。ソフトウエアの配布や負荷の軽いバックアップ/リストアなどに利用DAT,SLR,VXA
ミッドレンジスタンドアロンおよびオートローダー,ライブラリ向け。大型のサーバーと組み合わせて使用する。大容量だが,スループットは比較的低い。負荷サイクルは最大12時間/日を想定。主な用途はア―カイブやバックアップ/リストアなどAIT,DLT/SDLT,LTO Ultrium
ハイエンドライブラリ向け。大型サーバーやメインフレームと組み合わせて使用する。データ・アクセスとデータ転送が高速で,高い負荷サイクル(12時間以上/日)を前提に設計されている。主な用途は,バッチ処理,アーカイブ,高パフォーマンスのバックアップ/リストア,ディスクの代用などIBM System Storage TS1120,TS1130シリーズ,Sun StorageTek T9840,T10000シリーズ

 エントリー・クラスの規格/製品は,テープ1巻当たりの記録容量が200Gバイト以下で,家庭用オーディオ/ビデオ技術を応用した低価格な製品が多い。1日2~3時間の低い負荷サイクルを想定した設計になっている。

 ミッドレンジ・クラスのテープ・ドライブは,オートローダーやライブラリに多く採用され,今最も需要が高い。テープ1巻当たりの記録容量は200G~800Gバイトである。容量,データ転送速度,信頼性の点で,統合バックアップなどの企業ニーズにバランスよくマッチしている。ハイエンド・クラスの規格や製品は,ミッドレンジ・クラスの技術に信頼性と性能を高める拡張を加えている。