やや地味な印象のあるテープ・ストレージだが,データ転送速度や省電力性,コストの面では,意外にもハードディスク・ドライブ(HDD)を上回る面もある。テープの利用法を正しく理解するために,その基礎と最新のスペックをひも解いてみよう。なお,本講座は2006年に公開した「【初級】知っておきたいストレージの基礎」を基に,2009年の状況に合わせて加筆・修正した改訂版である。

吉岡 雄
日本クアンタム ストレージ

◆ポイント(2):データ転送速度

 テープ・ドライブは,HDDと比べて速度が遅いと一般に思われているだろう。テープの入れ替え時間やランダム・アクセス性能を問えば,確かにその通りだ。しかし,最新のテープ・ドライブでは,データ転送速度そのものはHDDに引けを取らないことがある。テープ・ドライブの現在の性能はどれほどなのか確認してみよう。

 図1は,代表的なテープ規格のデータ転送速度を世代ごとにまとめ,HDDの年代ごとのデータ転送速度と比較したものである。この図が示すように,テープ・ドライブのデータ転送速度は,各規格の世代が進むにつれて急速に伸びている。LTO Ultriumの第4世代(LTO Ultrium 4)では120Mバイト/秒(非圧縮時),ハイエンドのIBM System Storage TS1130テープ・ドライブでは160Mバイト/秒。5400回転/分のHDDを上回り,1万5000回転/分の高速HDD(データ転送速度は約163Mバイト/秒)に迫っている。

図1●HDDおよびテープ・ドライブのデータ転送速度
図1●HDDおよびテープ・ドライブのデータ転送速度
テープ・ドライブの最大データ転送速度は1万rpmのHDDに迫る

 しかも,HDDのデータ転送速度は最外周のトラックを読み込むときの「最大サステインド転送速度」の値なので,ディスクの最内周のデータを読み込む場合はその半分程度に減少する。

 容量単価が低下しているHDDをバックアップやアーカイブ用途に利用する動きはあるが,上記の結果を見る限り,テープ・ドライブもいまだ重要な選択肢であることが分かる。