図5は,事務机上に置いたサーバーAを,継続的に振幅するスイープ波で加振したときの結果だ(実験A-4)。実験では振動台の加速度は徐々に大きくなっているが,図に示した範囲では,振動台の加速度の大きさはおよそ400gal前後である。図3で示した兵庫県南部地震の揺れでは,500galを超える加速度が何度もかかっているのに比べると,その値は小さい。

図5●連続的に振幅するスイープ波でサーバーが落下<br>振幅ごとに事務机上をサーバーが小刻みに滑って徐々に移動し,加振開始後約17秒で机から落下した
図5●連続的に振幅するスイープ波でサーバーが落下
振幅ごとに事務机上をサーバーが小刻みに滑って徐々に移動し,加振開始後約17秒で机から落下した
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 そのため実際に加振したときのサーバーの動きを見ると,1回の揺れで机上を滑る距離は,兵庫県南部地震の大きな揺れよりも小さい。ただし,継続的な揺れによって,サーバーは振幅ごとに小刻みに机の上を滑って移動。加振開始から約17秒たった時点で,机上から落下する結果となった。

 サーバーBは,床上に設置してスイープ波の実験を実施した(実験B-4)。継続的な振動によって,左右への傾きを繰り返したが,転倒には至らなかった。兵庫県南部地震の大きな揺れに比べて加速度が小さかったことや,1回の振幅の移動距離の違いなどが影響していると考えられる。

 今回の実験では,重量物といえるPCサーバーが,地震の揺れによって容易に落下したり転倒したりする状況が確認できた。重要なデータを守るためには,事前に適切な耐震措置を施すことが不可欠である。

サーバー・ベンダーは震度5でも正常動作を目指す

 サーバー製品の耐震基準について,NECと富士通に聞いた。両社とも,独自の耐震基準を設けてサーバー製品を開発し,実際に加振装置を使った耐震試験を行った上で製品を出荷している。基準適用の対象となるのは,小型のタワー型サーバーから,ラックマウント型の大型サーバーまで,すべての製品である。

 NECは,「動作許容値」と「物理的許容値」の二つの基準値を設けている(図A)。動作許容値は,コンピュータ室床面の加速度が2.45m/s2(250gal)の振動時に,停止しないで正常動作を継続するというもの。年に1~2回発生する震度4強の地震を想定し,機器設置階の応答倍率を考慮して基準を定めている。

図A●NECが規定するサーバーの耐震基準<br>地震を想定した2種類の加速度で振動させて,正常動作するかどうか,物理的に損傷しないかどうかの基準を設けている
図A●NECが規定するサーバーの耐震基準
地震を想定した2種類の加速度で振動させて,正常動作するかどうか,物理的に損傷しないかどうかの基準を設けている
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 一方,物理的許容値は,きょう体がゆがむなどの物理的損傷が発生せず,簡単な点検で正常動作を開始できるという基準。地表で震度5強の地震を想定したものだ。そのほか,NTTなど特定の顧客向けに,さらに厳しい基準値に個別対応して製品を納入するケースもあるという。

実在する大地震の合成波で試験

 富士通は,(1)250galまでは,メディアやディスクにアクセスした状態で問題なく動作する,(2)400galでは,滑り止めなどで倒れない対策をして問題なく動作する,(3)1000galでは,ボルトなどで固定した状態で加振し,その後正常に動作する──という3段階の基準を持つ。実際の地震の影響を検証するため,兵庫県南部地震や十勝沖地震など,過去の大地震の波形を合成したものを使って,水平・垂直方向の試験を実施している。

 また,耐震基準を満たすべく,力を加えても変形しないきょう体,ハードディスクを固定するダンピング構造などを,設計要件に盛り込んでいる。さらに,地震対策の考え方や機器の固定方法,設置床の耐震・免震工法などをまとめた地震対策マニュアルをユーザーに提供している。