プロアクティブなモニタリングには,仮想環境に対応したシステム/ネットワーク監視ツールが欠かせない。こうしたツールは,既に大手のソフトウエア・ベンダーから製品として提供されている。物理サーバーから仮想サーバーへのマイグレーション,構成管理,仮想化ソフトや仮想OSの性能管理といったことが可能になっている。今回は,こうしたツールの動向を見てみよう。

 大手ベンダーが提供している製品は機能が豊富で,仮想環境のコンポーネントの性能,稼働状況の監視とレポートを提供する。仮想化トポロジ・マップ上に全コンポーネントを描画して障害状況を可視化できるツール,仮想サーバーの負荷状況の履歴を分析して必要な物理サーバーのキャパシティを見積もれるツールなど,管理者にとって便利な機能がそろっている。

 例えば米ヒューレット・パッカードの「HP Insight Control Environment」(ICE)がその一つだ。ICEはSystems Insight Manager(SIM)と,Virtual Machine Management Pack(VMM),Performance Management Pack(PMP)などのプラグインを合わせたスイート製品で,仮想マシン上で動くゲストOSの状態のほか,サーバーのネットワーク・インタフェース・カード(NIC),ハード・ディスク,メモリー,OSなど物理リソースの状態を監視できる。仮想環境に関して言えば,SIM上で稼働する「Insight Dynamics VSE」を使って,物理マシンから仮想マシン,仮想マシンから物理マシン,物理マシンから物理マシンへのOSの移動状況を把握できる。

 マイクロソフトの「System Center」に含まれる「Virtual Machine Manager」(VMM)は仮想化環境の構成を管理できる。2009年中にはVMM 2008 R2でモビリティ(ライブ・マイグレーションともいう)に対応。Intelligent Placement機能によって,必要な性能を得られる物理リソースを自動的に選び出し,ゲストOSを移動させられるようになる。さらに,「System Center Operations Manager」を組み合わせれば,サービスのトポロジを管理し,ゲストOSとアプリケーションのマッピングや仮想化環境でのサービス・レベルのトラッキングが可能になる。

 日立製作所もシステム管理ツール「JP1」で仮想化対応を進めている。性能を監視する「JP1/PFM」というモジュールでは,プロセスや仮想マシンの稼働状況と性能を監視できる。今秋にも発表される次期バージョンではヴイエムウェアのVMware vMotionのようなモビリティにも対応する。具体的には,どの物理サーバー上でどの仮想マシンが稼働しているかの対応管理機能を搭載する。VMwareが発行するイベント情報を受け取って,仮想マシンがどの物理マシンに移動したかを自動的に追跡できるようになる。富士通も,仮想化システム向け管理ツールの「Systemwalker Resource Coordinator Virtual server Edition」に,「ブレードビューア」という機能を実装している。ブレード・サーバー上に仮想環境を作った時に,その仮想サーバー上で動作している業務アプリケーションを記述しておき,仮想サーバーが移動しても自動追従して表示させられるという。

発展途上の仮想化対応,補完的なツールが登場

 ただ,サービスマネージャが1次対応する際のツールとしてみると,これらのツールには足りない部分もありそうだ。仮想マシンと物理マシンのマッピングはできても,サービスの観点から各コンポーネント同士の障害影響度が分からなかったり,ユーザーの体感品質(QoE)が低下した場合に根本原因を即座に特定する仕組みがなかったりと,必ずしも十分とは言えない。

 こうした背景から最近,アプリケーション・レベルでの監視を基に,エンド・ツー・エンドのサービス・レベルを可視化し,問題点を容易に把握できるツールが登場してきた。例えばシンガポールのeGイノベーション(eGI)というベンチャー企業の「eGスイート」である。eGスイートはVMware ESX Server,マイクロソフトのHyper-V,シトリックス・システムズのCitrix XenServerのどれにも対応した性能監視ツールで,障害切り分けのスピードアップを目指した製品。それぞれの仮想化ソフトのカーネルの状況と,アプリケーションの性能や稼働状況を同時に監視する。さらに,こうして監視・収集したイベント同士を関連付け,問題点を自動的に探し出す仕組みを持つ。SNMPを使ってスイッチの動作状況も把握でき,エンド・ツー・エンドでどこにボトルネックがあるかを把握できる。

新美 竹男
テリロジー取締役経営企画本部長
各社の製品に関する部分は編集部が加筆しました。
(河井 保博=日経コミュニケーション)