「学生のころ,もっと勉強しておけばよかった」---。あなたは社会人になってから何度このせりふをつぶやいただろうか。このせりふには,学生時代の怠惰への反省だけでなく,「将来仕事で必要だと分かっていたら勉強しておいたのに…」という悔しさも込められているように思う。

 「日本の大学は,エンジニアの教育を企業任せにしすぎている」。シスコ・ネットワーキングアカデミー・プログラムのマネージャーであるシスコシステムズの長部謙司氏はこう話す。長部氏は,エンジニアを目指す学生は,学生のうちから様々な実務経験を積むことが大事だと考える。実務を通して自分の将来像を明確化することで,学生時代を有効な学習期間に当てられるのだという。「新入社員の教育に1年も2年も費やしていては,企業の競争力が弱まってしまう」(長部氏)。

 シスコ・ネットワーキングアカデミー・プログラムは,ルーターやスイッチなどの実機を使ったネットワークの設定や管理,トラブル・シューティングなどを経験できる学生向けのeラーニング・プログラムだ。世界160カ国以上で,高等学校・高等専門学校・専門学校・短大・大学に導入されている。プログラムを修了すると,「ネットワーク業界では一生役立つCisco CCNA ネットワーク アソシエイト認定資格(CCNA試験)に合格できるレベルの実力が付く」(長部氏)と言う。

 ここでは,シスコ・ネットワーキングアカデミー・プログラムの参加校である帝塚山大学「コンピュータ・ネットワーク研究会」が主催したネットワーク・コンテスト「Network Skills Competition 2009 in帝塚山」の様子を紹介する。

写真1●コンテストで使用するシスコシステムズのネットワーク機器
写真1●コンテストで使用するシスコシステムズのネットワーク機器
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 同コンテストは,帝塚山大学で2009年3月17日に開催され,帝塚山大学,和歌山大学,関西大学,大阪工業大学,大阪電気通信大学の5校が参加した。各大学チーム対抗で,ネットワークのトラブル・シューティングの技術と速さを競う。コンテストで使用するネットワークの構築や,次々と発生するトラブルの仕込みは,コンピュータ・ネットワーク研究会のメンバーを中心に構成された運営事務局の学生たちが手がけた。また,使用するルーター,スイッチ,IP電話などは,シスコシステムズが無償で貸し出した(写真1)。

 参加チームは,ある大学のネットワーク担当者という位置付けで,学内ネットワークと学外サーバーで起こるトラブルを,3~4人1組で解決していく。課題は午前と午後1問ずつ,CCNA試験範囲の内容で出題される。

写真2●黙々と課題に取り組む学生たち
写真2●黙々と課題に取り組む学生たち
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 午前10時半,午前の課題が配布された。「1階教室でインターネット接続ができなくなった。トラブルを解決してください」という内容で,制限時間は1時間20分。各チーム黙々と作業に取り組む(写真2)。書籍でもオンライン上の資料でも,何を参照してもよい。いかに早くトラブルの原因を洗い出し,正しい解決策を講じることができるかを競う。

 コンピュータ・ネットワーク研究会 顧問の日置慎治帝塚山大学教授は,課題の難易度について「CCNAを勉強している学生なら,時間をかければ解けるレベルの問題。しかし,制限時間内に解くには,チーム内で作業を分担する必要がある」と説明する。残念ながら,来年以降のコンテスト開催を見越して,課題の詳細は非公開だ。

写真3●長時間にわたる競技で学生たちの顔には疲れの色が・・・
写真3●長時間にわたる競技で学生たちの顔には疲れの色が・・・
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 午前11時50分,午前課題の制限時間が終了した。しかし,トラブル解決に漕ぎ着けたのはわずか1チーム。日置教授の判断により急きょ時間が延長された。午後1時近くになって,ようやく午前課題の時間が終了したときには,学生たちの顔には疲労の色が…(写真3)。

 午後2時,午後の課題が配布された。当初の制限時間は1時間20分の予定だったが,午前同様に大幅に延長され,終了したのは午後5時になった。長時間,一つの問題解決に集中できる学生たちの忍耐力に脱帽するばかりだ。彼ら彼女らなら,将来優秀なエンジニアとして活躍できるだろう。

写真4●最優秀賞に輝き日置教授(右)から表彰される大阪電気通信大学チーム
写真4●最優秀賞に輝き日置教授(右)から表彰される大阪電気通信大学チーム
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 午前,午後の競技の結果,最優秀賞は大阪電気通信大学が受賞。メンバー3人に,日置教授から表彰状と,シスコシステムズとインターネットラーニングアカデミーから景品が贈られた(写真4)。

 コンテスト終了後,学生たちに簡単なアンケートに協力してもらった。コンテストに参加した感想を尋ねると「力不足だった」「勉強不足を感じた」という意見が大部分を占めた。「自分のふがいなさにショックを覚えた」という感想もあった。

 だが,今回のコンテストを通じて,学生たちは将来の仕事に必要な勉強とは何かを理解したに違いない。参加者の大半はネットワーク・エンジニア志望。彼ら彼女らが社会人になったとき,筆者のように「学生のころ,もっと勉強しておけばよかった」などとはぼやかないだろう。

■変更履歴
本文中「シスコシステムズから景品が贈られた」とありましたが,正しくは「シスコシステムズとインターネットラーニングアカデミーから景品が贈られた」です。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。 [2009/03/30 13:20]