米オバマ政権の経済対策が「グリーン・ニューディール政策」と注目されるなか、欧州や韓国などは環境も視野に入れた景気浮揚を狙う。日本も追随するが、足元の雇用や景気対策への実効性には疑問符が付く。

 オバマ新大統領の誕生に沸く米国で、「グリーン・ニューディール政策」への期待が高まる。政府による環境やエネルギー産業への資金注入で、新たな雇用の創出を狙う経済対策だ。

 米議会の下院民主党は1月、2年間で8250億ドル(約74兆円)を投じて400万人の雇用を生み出す経済対策案をまとめた。風力や太陽光発電、自動車向けバッテリーの技術開発などの環境分野に680億ドル(約6兆円)を計上している。

 オバマ大統領は選挙期間中、1500億ドル(約13兆5000億円)を自然エネルギー開発などに投入して、500万人に及ぶ「緑の雇用」を生むとの構想を示し、注目を集めた。その後、深刻化する世界的な経済危機の中で、各国が環境分野への投資を織り込んだ経済対策を打ち出している。

従来型公共事業に頼る欧州

 EU(欧州連合)は低燃費車の開発に50億ユーロ(約5900億円)以上を投入。ドイツは、建物の省エネ改築・改修促進に30億ユーロ(約3510億円)を投じる。英国は環境ビジネス促進に5億3500万ポンド(約700億円)を捻出する。

 ただ、欧州の今回の経済対策では、鉄道や交通など従来型の公共事業が雇用の創出を一手に担う。EUは3470億ユーロ(約41兆円)の基金で加盟国の公共事業を支援。英国も、環境分野の5倍の資金を公共事業に投じる。環境分野に対する雇用の受け皿としての期待は低く、雇用規模も想定していない。欧州の経済対策を、「グリーン・ニューディール政策」とひと括りに呼ぶのは短絡的だ。

 欧州各国とは対照的に、環境分野に雇用拡大を期待するのが韓国だ。自然エネルギーや低燃費車開発で1万5000人、リサイクルなどで5万人の雇用を見込む。

表●各国政府が昨年秋以降に発表した主な環境分野の経済対策
表●各国政府が昨年秋以降に発表した主な環境分野の経済対策
出所/日本貿易振興機構の資料を基に本誌が作成
[画像のクリックで拡大表示]

 日本は麻生太郎首相が1月28日の施政方針演説で、「低炭素革命」を柱の1つとした成長戦略の策定を表明した。これに先立つ同6日、斉藤鉄夫環境大臣は首相に「日本版グリーン・ニューディール政策」と呼ばれる経済対策案を提案。だが、その中身は民間による環境投資の促進など小粒の対策が並び、首相は他省と連携して練り直すように指示した。

 一方、政府は昨年7月、「低炭素社会づくり行動計画」を閣議決定している。次世代技術の研究開発に約2兆7000億円を投じ、低燃費車や太陽光発電など既存技術の普及を図る。この行動計画が日本版政策の屋台骨をなすと予想されるが、足元で求められる景気対策や雇用の促進は期待できそうもない。政策の上積みが必要だが、「財源や資金規模が見えず他省は逃げ腰」(政府筋)だ。

 自民党内では塩崎恭久元内閣官房長官が低炭素社会の構築も念頭に10兆円規模の雇用対策予算の創設を狙っており、首相の成長戦略への影響もありそうだ。日本版政策の中身がどう固まるかは未知数だが、現状では限定的な内容に落ち着きそうだ。