1987年の通信関係の主な出来事

●富士通によるパソコン通信サービス「NIFTY-Serve」が始まる(4月)

●KDDに対抗する国際サービスを目指す日本国際通信と国際デジタル通信が第1種通信事業者免許を取得

●米シンオプティクスが10BASE-Tの原型を発表

 1987年9月4日,新規通信事業者(NCC)がついにNTTの本丸,固定電話サービスに侵攻を始めた(写真)。NCCが提供を開始したのは,長距離電話サービス。ユーザー宅から電話局まではNTTの網を使い,市外に出る際にユーザーがNTTかNCCかを選ぶ形となった。市内通話は依然NTTだけしか選べなかった。

 NCCの長距離電話サービスの利用方法は至って簡単。NTTの加入者番号の前に,NCC固有の識別番号を付けてダイヤルするだけである。識別番号は第二電電(DDI)は0077,日本テレコムは0088,日本高速通信(テレウェイ)は0070だった。ただし,利用者はそれぞれの通信事業者とサービス利用の契約をあらかじめ結んでおく必要があった。

複雑な料金体系が生まれる

 独占が崩れたことで長距離電話料金は劇的に下がった。NCC3社の料金は東京-大阪間が3分300円。これはNTTの3分400円を25%も下回る料金だった。この区間でこそ同じだったが,ほかの区間の電話料金は各社が独自に設定した。データ通信サービスで同じ料金で開始したのとは対照的だ。

 この結果,生まれてきたのがユーザーを混乱させる複雑な電話料金体系である。通話区間によって,NCCのどれかが安くなることもあれば,NTTが最も安くなるケースが出てきた。

 一例を挙げると,平日昼間の場合,東京-沼津間ではNTTの3分260円に対し,日本テレコムが200円,DDIが219円,テレウェイが220円とNCCを使った方が得だった。逆に,大阪-銚子間では,NCC各社の3分410円に対し,NTTは400円と最も安くなった。休日・深夜/早朝料金を含めると,料金体系はさらに複雑になった。

最安回線を選択する「LCR」が登場

 企業ユーザーからは,電話料金をなるべく安く使いたいというニーズが当然出てくる。この欲求に応じて各PBXベンダーが投入してきたのが,PBXに搭載するLCR(least cost routing)ソフトウエアである。

 NTTと各NCCの電話料金表を持ち,ユーザーの発信先に応じて最も安い料金の電話事業者を探し出し,識別番号を付加して外部発信をするという仕組みだ。主要ベンダーのデジタルPBXはほとんどが,LCR機能にソフトウエア・アップグレードで対応していた。ちなみにこのLCRはソフトバンクの孫正義社長が特許を保有している。

 各NCCもユーザー企業の囲い込みのために回線選択アダプタを提供した。その都度,安い回線を選ぶのはLCRと同じだが,NTTか,そのアダプタを提供しているNCCのどちらかしか選択できなかった。アダプタは当時,買取で1万円~1万5000円,レンタルで月額200~300円だった。

 順調に滑り出したかに見えるNCCの電話サービスだが,課題も多く残っていた。NCCが当時電話サービスを提供していたのは,利幅の多い東名阪を中心としたエリアだけ。NTT側からは「クリームスキミング」と批判の声が挙がっていた。