1986年の通信関係の主な出来事

●米プロテオンが世界初の商用ルーターを出荷する(1月)

●インターネット標準を策定する団体「IETF」が発足(1月)

●第二電電(DDI),日本高速通信,日本テレコムの長距離系NCC3社が長距離専用線サービスを開始(8月~11月)

 1986年,いよいよ通信サービスの競争が始まった。1985年の通信自由化を受け,新たに第一種通信事業者の免許を受けた新規通信事業者(NCC:new common carrier)が専用線サービスを始めたのがこの年である。

 日本テレコムは8月,第二電電(DDI)は10月,日本高速通信は11月に専用線サービスを開始した。これら3社は長距離の高速ディジタル専用線を主力のサービスとしており,「長距離系NCC」と呼ばれている。

 当初のサービス・メニューとしては,64k~6Mビット/秒の帯域が利用できた。東京-大阪間の料金例を挙げると,64kビット/秒で79万6000円/月,6Mビット/秒で838万円/月だった。

 加えて,11月には東京通信ネットワーク(TTNet)が東京,千葉,埼玉,神奈川,茨城の1都4県でサービスを開始した。こうした地域限定の専用線サービスを提供する事業者は「地域系NCC」と呼ばれ,1987年以降,各地域で次々とサービスを始めている。

大口顧客狙うNCCにNTTが危機感

 NCCがNTTに対抗する唯一の武器は,低料金である。サービスイン当初の料金を見ると,NTTに比べて長距離系NCCが約25%,地域系NCCが約20%程度安かった。100社を超えるユーザー企業が,サービスインの1986年から導入した。

 NCCの専用線サービスをいち早く導入した企業の狙いは様々だった。まず企業内通信のコスト削減を狙って導入を決めた企業がある。また,低料金の専用線を利用して新事業を開拓する企業も現れた。例えば,インテリジェント・ビルのテナントに回線をリセールするといった事業である。その一方で,NCCに出資している企業が“義理”で導入を決めたケースも少なくなかった。

 NCCが顧客として重点的に狙ったのは,利益率の高い大手企業である。こうした大口顧客は,NTTの主要な収益源でもある。NTTは,大口顧客をまるごとNCCに取られると事業が立ち行かなくなると危機感を募らせ,1986年内に専用線サービスの料金値下げを郵政省(現総務省)に打診する動きに出ている。

 競争が始まった初めの年から,早くも成果が見え始めた格好だ。

足回りをNTTに頼るという弱点も

 その一方で,NCCにも課題があった。特に大きな問題を抱えていたのは長距離系NCCである。それは,ユーザーを直接収容する足回りをNTTの市内専用線に頼らざるを得ないという泣き所があったからだ。

 ユーザー企業には,NCCが提供する長距離専用線と,NTTが提供する市内専用線を合わせたエンド・ツー・エンドの料金を提示する。NCCが提供するサービス区間が短い場合,市内専用線の料金の割り合いが高くなり,競争力のある料金設定が難しくなる。このため,120km以上の中・長距離区間しか商品として成り立たなかった。

 好調な出だしのNCCだったが,足回り回線というNTTの“くびき”につながれた状態のままで,完全な自由競争への道のりは遠かった。