プロジェクトでは「見える化」が重要である。一般に,現場の状況を定量的に見るアプローチがとられているが,それだけでは危ない予兆(=リスク)を見落としやすい。PMOは「見える化」で見えないものにも敏感になり,プロジェクトマネジャの意思決定を支援する必要がある。

渡部 孝一
マネジメントソリューションズ マネージャー


 プロジェクトの「見える化」が重要であることは一般に認識されており,皆さんも取り組んでいることと思います。進捗を成果物完了数で計測したり,課題未解決数を原因分類ごとに可視化したりするなど,確かに定量的な指標に基づく「見える化」が定着すると,プロジェクトの状況を把握しやすくなります。

 しかし,「見える化」した定量的な情報ばかりに注目していると,プロジェクトに潜む危険な「予兆」に気づかないことがあります。数字に頼りすぎてはいけません。

「見える化」の裏側

 定量的な情報に頼りすぎると,なぜいけないのでしょうか。例えば以下の4項目はプロジェクトマネジメントにとって重要な情報ですが,定量的に把握できるわけではありません。

クライアントの満足度

<クライアントが満足している場合>
 クライアントから冗談を言われたり,会議中も笑いがあったりします。
 
<クライアントが満足していない場合>
 こちらの発言に対して,微妙に顔をしかめたり,目を合わせてもらえなかったりします。

チーム間の関係

<チーム間の関係が良好な場合>
 会議が始まるまでの時間に雑談をしたり,昼前の会議後に誘いあって一緒に食事に行ったりします。

<チーム間の関係が悪い場合>
 チーム横断会議に遅刻が多かったり,会議中もお互いの口数が少なかったりします。

プロジェクトルームの雰囲気

<プロジェクトルームの雰囲気が良好な場合>
 「おはようございます」「お疲れさまでした」「○○に行ってきます」などの挨拶や会話が当たり前のようにあったり,仕事中,適度な雑談があったりします。

<プロジェクトルームの雰囲気が悪い場合>
 挨拶や会話がなく,誰が今どこで何をしているか把握できない状態であったり,仕事中も無言で仕事していたりします。

メンバーのモチベーション

<モチベーションが高い場合>
 出勤時刻が早かったり,会議でもポジティブな発言が多かったりします。

<モチベーションが低い場合>
 遅刻や休みが多かったり,会議でもネガティブな発言が多かったりします。

 これらは,定量化による「見える化」では決して見えてきません。いくらプロジェクトが円滑に進んでいるように見えても,これらの項目で危険な予兆を見逃すと,後々問題を引き起こしかねません。

 プロジェクトが小規模な場合やプロジェクトの初期フェーズにおいては,プロジェクトマネジャにも余裕があるでしょう。そういう場面では,プロジェクトマネジャがクライアントやメンバーと積極的にコミュニケーションをとって,予兆をつかむ機会がたくさんあります。

 危ないのは,プロジェクトが大規模な場合や,プロジェクトが遅れ始めた状況のときです。プロジェクトマネジャに余裕がなくなってくると,上記のような点に気づかなくなります。