マーシュブローカージャパン ディレクター/シニアバイスプレジデント 佐藤 徳之氏
マーシュブローカージャパン ディレクター/シニアバイスプレジデント 佐藤 徳之氏
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 2009年1月に都内で開催された「都道府県CIOフォーラム春季会合」において、マーシュブローカージャパンの佐藤徳之ディレクター/シニアバイスプレジデントは「行政におけるBCP」をテーマに講演を行った。概要をお届けする。

 災害の規模にもよるが、行政の対応力にはおのずと限界がある。実効性のあるBCPの普及には、官民連携の取り組みが重要となるだろう。例えば企業のCSR(企業の社会的責任)調達基準の中にBCPを加えるといった措置を考えるべきだ。BCP導入および防災対策の優れた企業に、優遇金利で融資するといった措置をとってもよいのではないか。

 中小企業向けの防災対策支援の融資制度も、おそらく制度としては存在するのではないかと思うが、もっと周知に力を入れるべきだ。また、地元中小企業や住民のためにBCP構築のためのコツやトレーニング方法を分かりやすく伝えることも、地域安全の向上につながる。

 阪神・淡路大震災の時にはボランティアが不可欠だった。ボランティアの協力体制が仕組みとして整っていれば、さらにうまく機能したはずだ。何をどこまで守ればよいかを十分に議論し、場合によっては市民との合意形成も必要となるだろう。

 各ステークホルダーへのインセンティブも考えるべきだ。社員のためだけでなく、工場のある地域住民に対して災害時に向けた備蓄を行っているという企業もある。行政は、そうした取り組みをしている企業があるかをまずはきちんと知り、行政から何らかのインセンティブを提供し、さらにお互いに情報を交換することが重要だろう。

米国の人材育成の取り組み

 BCPをBCMに、つまりマネジメントシステムに高めていくには、人材の育成が重要だ。米国では地方自治体や教育機関、NPO団体や中小企業にリスクマネジメント教育の啓発やトレーニング手法などを提供するPERI(Public Entity Risk Institute)というNPOがある。PRIMA(PublicRisk Management Association)は地方自治体のリスクマネジャーが所属するリスクマネジメント協会だ。この大会はなかなか盛況で、各リスクマネジャーが活発に情報交換している。PARMA(Public Agency RiskManagement Association)という公共リスクマネジメント協会は、地震という大きなリスクを抱えるカリフォルニア地方の中で情報交換をしている。

 社会共通のリスク管理システムの構築に向けた取り組みについてはどうか。米国の場合、NIMS(NationalIncident Management System)と呼ばれる全米共通のマネジメントシステムがある。地方政府が被災時に連邦政府から資金的な援助を得るためには、NIMSがきちんと完備されていることが必須になっている。

精神的ケアも必要

 そのほか、見落としがちな点をいくつか指摘しておきたい。

 まず、万一の場合に本当にパソコンなしで業務が行えるのかという認識と実際のトレーニングは重要だ。一度システム化した作業を紙に戻そうとしても、意外とできないものだ。また、代替拠点の運営など、緊急的に必要なコストについて明確に備える時が来ているのではないか。思いもよらぬ財政コストが発生したときにどうするのか。欧米では保険をうまく活用している。

 最後に、精神的ケアの問題も指摘しておきたい。大きな災害時には、住民や職員の安否確認だけでなく、心療内科の先生も確保したいところだ。(談)