携帯コンテンツに関する通信事業者の取り組みは,公式サイト数の多寡で二つに分かれる。公式サイトの数が少ないKDDIとソフトバンクモバイルは,コンテンツの販売手数料収入に期待しない新たな事業モデルの開拓を図る。公式サイトの数が圧倒的に多いNTTドコモは,個々のサイトの利用促進を目指している(図1)。

図1●各通信事業者の課題と2009年に注力する取り組み<br>通信事業者各社は,コンテンツに関して異なる課題を抱えている。それぞれの課題について,解決を図っている。
図1●各通信事業者の課題と2009年に注力する取り組み
通信事業者各社は,コンテンツに関して異なる課題を抱えている。それぞれの課題について,解決を図っている。
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ライフスタイルを軸に多面展開するKDDI

 「携帯コンテンツを軸とした商社」。多くのコンテンツ・プロバイダが,KDDIのコンテンツ・サービス戦略をこう表現する。コンテンツ課金にこだわらず,KDDIの冠でもうかる商売は何でもやると姿勢を指したものだ。

 その象徴が携帯電話と連携するテレビ用セットトップ・ボックス(STB)の「au BOX」。au BOXをテレビと接続することで,同社の携帯電話でダウンロードした音楽や映像をテレビで再生したり,CDの楽曲を携帯電話に取り込んだりできる。パソコンを所有していない利用者をターゲットに,月額315円で機器を貸し出す。

 これは,同社の音楽サービス「LISMO!」の延長にある取り組み。周辺のハードウエアや流通コンテンツの開発も手がけることで,携帯電話の利用機会や収入源を増やしている。

 音楽に加えて,直近ではスポーツ,ファッションなどにも注力している。スポーツでは2008年1月から日常的な運動をサポートするサービス「au Smart Sports」を開始,同年6月からスポーツ用品ブランドのアディダス ジャパンと組んでランニング・イベントに合わせたコンテンツなどを提供している。ファッションでは「EZ MYスタイリング」でヘアスタイル・シミュレーションと着せ替えシミュレーションで美容院や洋服販売店への集客を支援している。

 携帯電話は,ユーザーとブランドを結ぶ強力なチャネルである。特定のブランドや企業に肩入れすることには賛否両論があるが,有力ブランドなどと協業することによって,KDDIとしては販売促進費を得ることが期待できる。

グリーと共同で新規マーケットを創出

 同社が上場に導く一助になったグリーとの共同展開も,収益源の多様化に向けた取り組みの一つということになる。

 ここで注目すべきは,グリーが提供するSNSである「GREE」のモバイル版をグリーと共同開発したうえで,これをほかの通信事業者にも展開している点だ。GREEは3通信事業者で公式サイト展開するが,KDDIとは課金コンテンツ収益の一部が,KDDIにも支払われる契約になっている。

 成長が見込まれるサービスを囲い込むのではなく,他社にも展開することでGREEユーザー全体の母数を大きくする。結果的に,KDDIの利用者も増加して収益が拡大するというモデルに導いたのである。グリーの場合,2008年末の上場により,同社に出資したKDDIにも含み益が出ている。

 KDDIによれば,GREEと同じようなマルチキャリア展開は,今後もさらに積極化する方針だという。音楽やスポーツにおける垂直統合モデルと同様,新たなコンテンツ・サービスを開拓しようとしている。