競合企業が急増するコンテンツ・プロバイダは,各社とも次の一手を模索している。そんな中,一部のコンテンツ・プロバイダは,既存の領域や発想の“外”に活路を見出している。

 例えば,公式サイトの規格には収まらない自由な発想のサービスを通信事業者の外のサイト上に作り上げた「ニコニコ動画」,携帯コンテンツをユーザーの力を借りて書籍化や映画化に持ち込んだ「魔法のiらんど」,携帯コンテンツを“撒き餌”として活用し実店舗への誘導に力を入れる「すかいらーく」,世界的なiPhoneブームに乗じて世界市場に飛び出そうとしているベンチャー企業群などだ。

公式サイトの外で生まれた「ニコ動」

 公式サイトの外でサービスを始めたことで成功した例が,動画共有サイト「ニコニコ動画」である(図1)。パソコン向けとして2006年に始まった同サービスの会員数は1000万人を超え,2008年に始めた携帯電話向けサイト「ニコニコ動画モバイル」の会員数は2008年12月時点で275万人にまで急増している。

図1●かつてのiモードの審査基準とはなじまなかった「ニコニコ動画」<br>「ニコニコ動画」の人気を支える特徴は公式サイトのルールに添わなかった。
図1●かつてのiモードの審査基準とはなじまなかった「ニコニコ動画」
「ニコニコ動画」の人気を支える特徴は公式サイトのルールに添わなかった。
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 今でこそニコニコ動画モバイルはドコモの公式サイトに認定されたものの,2006年以前ならNTTドコモの公式サイトの基準には合わなかった。ニコニコ動画はユーザー同士がサイト上で交流するコミュニティ・サイトの典型だが,2006年までのNTTドコモの規定ではコミュニティ・サイトを認めていなかったからだ。

 その後,SNSやCGMの社会的な認知度向上などに伴い,NTTドコモはコンテンツ審査に関する規制を緩和しコミュニティを解禁した。2007年に加入したmixiをはじめ,多くのSNSが参入。ニコニコ動画も公式コンテンツ入りを果たしたのである。

 ニコニコ動画の例は,コンテンツやサービスが成功するかどうかは,当然のことながらユーザーが受け入れる企画次第ということを証明した形だ。今後,公式コンテンツ間の競争が激しくなることから,「ネットワーク機能を生かした,コンテンツや企画力がますます重要になる」(モバイル・コンテンツ・フォーラムの岸原孝昌事務局長)だろう。

通信事業者との利害が一致しないことも

 通信事業者の審査は緩和の方向に向かっているが,今でも「NTTドコモの公式サイトにはコンテンツ掲載,編集・編成,ビジネスモデルに制限があり,新しいコンテンツの誕生を阻害する一因となることがある」(携帯コンテンツ事情に詳しいケイタイ広告の小野達人代表取締役社長)という指摘がある。

 例えば,あるコンテンツ・プロバイダの経営幹部は「2008年に公式サイトに登録したが,売り上げは下がってしまった」という。一般サイトで事業展開した後,公式サイトに移行したというこのプロバイダの事業モデルは,最終的には電子商取引で売り上げを得るというもの。公式サイトに登録するタイミングで,NTTドコモの指示に従い商品の購入画面までのサイト遷移を増やした。

 結果的に,アクセス数に対する平均購買単価が下がってしまったのだという。これは,画面の遷移数を増やしたことで使い勝手が悪くなり,コンバージョン(商品購入などの最終成果)率が下がったのが原因だとする。