アビームコンサルティング
製造・流通統括事業部 執行役員 プリンシパル
IFRS Initiative リーダー 公認会計士
藤田 和弘

 前回は,国際会計基準(IFRS)が必要とされる背景とグローバル・スタンダードとなっていく過程を説明しました。今回は,会計基準としてのIFRSが備える2つの特徴について取り上げたいと思います。

日米基準は「規則主義」,IFRSは「原則主義」

 前回,会計基準とは「企業が活動した結果を数字(金額)で分かるようにするための尺度」だと表現しました。しかし,唯一の正解に導いてくれる完全な尺度は存在しません。実際に使うときには,その都度,人の判断が必要になります。

 では,会計基準はどのように人の判断を支えるのでしょうか。その方針は大きく2つあります。1つは,どう判断するかを,あらかじめ具体例や数値で細かく定めるというもの。もう1つは,人が判断するときの考え方や枠組みだけを示すというものです。前者を「規則主義」あるいは「細則主義」,後者を「原則主義」と呼びます(図1)。

図1●原則主義 VS. 規則主義
図1●原則主義 VS. 規則主義

 米国や日本の会計基準は,前者の規則主義に基づいています。米国の会計基準は,詳細かつ膨大な規則で構成されています。加えて,実務上の判断や解釈を助ける具体的な指針や数値基準が多く含まれています。日本の会計基準も,会計原則以外に実務指針などのガイダンスがあり,多くの具体的な例示や数値基準を含んでいます。

 これに対して,IFRSは後者の原則主義に基づいています。これがIFRSの第1の特徴です。

 IFRSで定めているのは原則や枠組みと,最小限の適用・解釈指針だけです。財務諸表を作成する企業は,IFRSの原則に従って具体的な適用について判断しなければなりません。判断に迷う場合には,必要に応じて監査人と協議して決定することになりますが,最終的な判断は企業自身が行います。

 この違いは,会計基準のドキュメントの厚さにも表れています。米国基準は約2万7000ページにも及ぶ規則などから構成しています。これに対し,IFRSのドキュメントはほぼ10分の1の2700ページ程度に過ぎません。