厳しい不況の最中であっても、非常時に重要な業務を継続もしくは早期に復旧する事業継続計画(BCP)の策定・実行は欠かせない。むしろ、「BCPを策定・実行せよ」との圧力はこれまで以上に高まっているとみるべきだろう。

新型インフルが新たな圧力として浮上

 企業にBCPへの取り組みを強いる圧力とは何か。筆者は昨年の夏まで、その圧力は三つあると考えていた。取引先からの要求、政府や業界団体のガイドラインの整備、国際標準の登場、である。

 しかし現在では、圧力と呼べるものはもう一つあるというのが筆者の考えだ。その四つ目の圧力とは、新型インフルエンザである。

 新型インフルは企業に対して、どれほどのインパクトをもたらすか。当初はその大きさを分かりかねたが、現在では非常に大きいと認識している。そのことを伝えるために、今年1月には記者の眼として「新型インフルを“体験”してわかった企業の本当の危機」を書いた。

 この記事をお読みいただければ分かるように、多くの危機管理担当者が「新型インフルまん延」という非常事態に直面した際、どのように行動すればいいのかを図りかねているのが現状だ。

 新型インフルには今のところ特効薬がない。従業員を自宅待機させて感染を回避および緩和するのが基本である。しかし、社会インフラの維持に必要な従業員に対しては、業務の続行が求められる。

 その際に、会社側はどのような根拠によって、さらにどんな手順を使って出勤を命令するのか。自宅待機の社員の給与はどうするのかという点も悩ましい。多くの社会機能が麻痺し売上が激減しても、給与やオフィスなどの固定費はかかり続ける。

取引先からのチェックが始まる

 ほかの三つの圧力も小さくはない。取引先からの要求はその一つである。上記の新型インフルを例にとってIT関連の影響を考えてみると、電気、ガス、水道、通信、金融といった業種の企業は、取引先であるIT企業に対してシステム運用・保守の継続を要請するだろう。そもそも、こうしたIT企業の担当者は政府によって「社会機能維持者」に位置付けられ、非常時の業務継続が求められる。

 新型インフルほどの非常事態でなくても、自動車やエレクトロニクスといった産業では、取引先のBCPを確認する例が増えているという。日本では2007年夏の中越沖地震が一つの契機となった。

 例えば部品メーカーのリケンは中越沖地震で被災し、自動車のサプライチェーンを停止させてしまった。リケンはコスト削減のため、新潟の工場に生産・物流を集中させていた。これが裏目に出たのである。

 同社は地震による被災を教訓に、BCPの体制を見直すことに決定。生産工程のシンプル化と物流拠点の2重化に取り組んだ。