3月期決算のJ-SOX適用企業にとって、J-SOX対応に残された準備期間はあとわずか。本来の目的を見失わないことが何より重要になる。

 3月期決算の企業にとって、日本版SOX法(J-SOX)対応の初年度が終わろうとしている。上場企業は約3900社。加えてJ-SOXは、連結グループを対象にしている制度だ。日本中で数万社以上がJ-SOX対応を進めていることになる。

 一方で財務報告の適正性を確保するために内部統制を整備・運用し、監査を受けるというのは、日本企業にとって初めての経験。「監査法人がこれまでと全く違う指摘を始めた」「IT全般統制が有効でないと監査人から言われた。ただでさえ人手が足りないのに、指摘された事項をすべて修正するのは無理」「内部統制の有効性を評価した結果、不備があった。この状況で監査法人は内部統制を有効と認めてくれるのだろうか」---。疑問や不安の声が、対応企業から上がっている。まだまだ油断は禁物だ。

 企業側の内部統制の整備・運用状況を監査する監査法人も、決して準備万端ではない。監査法人にとってもJ-SOXは初体験。監査法人はそれぞれ監査人向けのマニュアルなどを用意しているが、「個々の監査人で考え方にブレが生じてしまうのは仕方ない」と、ある大手監査法人の公認会計士は打ち明ける。

「内部統制報告書」第1号が08年11月に登場

 現状では、企業はどのような状況にあるのか。日本監査役協会が2009年2月に発表した対応状況の調査では、「運用状況の有効性評価作業を終了、あるいは実施中」と回答した企業が50.3%、「運用の不備を改善、あるいは改善中」の企業が41.6%だった。コンサルタントなどJ-SOXの専門家に聞いても、「不備を改善中の企業が多い」との見方で一致している(図1)。

図1●J-SOXの対応状況
図1●J-SOXの対応状況
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 日本監査役協会の調査の実施時期は1月中旬。そこから2カ月経っているものの「J-SOX対応は万全である」と胸を張れる企業はまだ少ないようだ。残された期間はあとわずかで、監査法人側も万全の体制とはいえない。

 ここで確認したいのは、「J-SOX対応の本来のゴールとは何か」である。それは、「内部統制報告書を作成し、報告書の適正性について監査人から監査を受けること」である。 「不備の修正にとらわれすぎたりすると本来のゴールにたどり着けない恐れがある」と、野村総合研究所(NRI)ERMプロジェクト部の堤 順グループマネージャーは指摘する。

 2008年11月28日には内部統制報告書を提出した第1号の企業が登場した。決算期の変更により4月に始まった事業年度が8月31日に終了したことにより、3月期決算の企業よりも内部統制報告書の提出が早まったからだ。あと2カ月、対応作業を進める中で、不備の修正作業と内部統制報告書の作成の二つの作業をバランスよく進めることが必要になる(図2)。

図2●J-SOX対応プロジェクトの流れ
図2●J-SOX対応プロジェクトの流れ
残りわずかの時期では有効性評価以後の作業が中心になる

 内部統制報告書の作成は容易でない。現場が作成した評価結果の文書を基に、経営者が自社の有効性を評価。その上で報告書にたどり着く。報告書を作成するための時間の確保が必要不可欠だ。この点はJ-SOX対応が進んでいない企業も同じである。