本記事は日経SYSTEMSの特集をほぼそのまま再掲したものです。初出から数年が経過しており現在とは状況が異なる部分もありますが,この記事で焦点を当てた開発・運用現場の本質は今でも変わりません。

 

 ITエンジニアであれば,プロジェクトに参加しているなかで,残業を余儀なくされたことが誰でもあるはずです。では,残業がなくならない原因はどこにあるのでしょうか。

 原因の大もとは,メンバー一人ひとりが,自分にアサインされた仕事に関して,サバを読んでバッファを見込むことにあります。あなたにはこれまで,「この仕事は何日でできそうか」と上司に聞かれたとき,ギリギリ3日でできるところを「5日かかりそうです」などと答えてバッファを確保した経験がありませんか。

岸良 裕司 氏

 サバを読むこと自体は,決して悪くありません。納期通りに仕事を終わらせる責任感があれば,むしろ当然のことです。

 ただし,メンバー一人ひとりがバッファを持つと,それを無駄にしがちです。余裕があるうちは真剣になりにくいため,すぐにバッファを使い切ってしまいます。そのとき突発の仕事が生じれば,すぐに残業です。

 この状況を打破するには,メンバー一人ひとりがサバを読むのではなく,チームのみんなでサバを読むことが大事です。具体的には,「この仕事は何日でできそうか」という質問に対して,各メンバーがギリギリの日数を正直に答えます。そのうえでその日数の半分くらいを,メンバーに属さない共通のバッファとして,チーム全体でプールしておくのです。

 こうすれば,仕事を行うとき,メンバーには最初から余裕が全くありません。これが適度なプレッシャーを生み,仕事がはかどります。もちろん,納期に遅れるメンバーが出てくるでしょう。そのときには決してとがめず,チーム全体でプールしたバッファを与えていきます。

 この仕組みは,メンバーにとってプレッシャーがきついだけのように思えるかもしれません。しかしメンバーがサバを読むことは,言い換えるとメンバーが1人で責任を背負い込むことに等しいのです。そんな状況では,ひとたび何か起きたとき,メンバー一人ひとりが守りに入ってしまい,助け合いが生まれません。これに対してみんなでサバを読めば,チーム全体で等しく責任を共有することになります。メンバー個人への過剰なプレッシャーはなくなり,チームワークが生まれ,助け合えるのです。

 修羅場と化したプロジェクトで,この方法を試してください。残業は必ず減ります。さらに,メンバー個人に作業遅れの責任を取らせていたプロジェクトであれば,それまでの暗い雰囲気が一変するはずです。

 この考え方は,「CCPM(Critical Chain Project Management)」と呼ぶプロジェクト・マネジメント手法に含まれています。CCPMにはこのほか,「目的と手段をはき違えないようにする」「スケジュールの後ろから段取りをしていく」などのポイントがあります。興味のある方は,CCPMをぜひ学んでください。

ビーイング 取締役 経営推進室長,日本TOC推進協議会 理事
岸良 裕司 氏
京セラを経て,2003年にビーイング入社。「CCPM(Critical Chain Project Management)」と呼ぶプロジェクト・マネジメント手法を実践。自社のみならず,様々な業種におけるプロジェクトの改革で成果を上げる。著書に「目標を突破する実践プロジェクトマネジメント」「マネジメント改革の工程表」(ともに中経出版)がある