本記事は日経SYSTEMSの特集をほぼそのまま再掲したものです。初出から数年が経過しており現在とは状況が異なる部分もありますが,この記事で焦点を当てた開発・運用現場の本質は今でも変わりません。

 かつてSEとして働いていたころ,毎日が残業でした。土日の休みもあまりなかった。「誰よりも頑張っている」。そんな自負を持って,夜遅くまで会社に残り,残業漬けの毎日を送っていました。

奥井 規晶 氏

 そんな仕事のやり方を変えたのは,ボストン コンサルティング グループに転職してしばらく経った30代後半のときです。より厳しい職場に身を置いたのに,残業はほとんどゼロ。19時には退社するようになりました。あるきっかけがあったのです。

 実は転職した当初,仕事のスピードにまったく付いて行けませんでした。年下のコンサルタントが,私の何倍もの仕事をこなす様子を目の当たりにしました。焦らないわけがありません。毎日深夜まで仕事を続けました。しかし,まったく追いつけなかった。プライドがズタズタになりました。

 このとき,能力不足を時間で補うことの限界を痛感しました。体力の限界まで残業を増やしても,こなせる仕事量はさほど増えません。そうしてようやく,「仕事のやり方を変えなければならない」という点に目が向いたのです。

 試行錯誤して行き着いたのが,「要は何だ」と自問自答を繰り返し,本当に注力すべき仕事を絞り込むことでした。すべてに全力投球するのではなく,メリハリを付けるわけです。

 もう一つ,仕事のやり方に関して,以前と大きく変わった点があります。それは,仕事で行き詰まったとき,周りの人に聞くことです。上司や先輩,同僚に「こういう場合,あなたならどうするか」と聞いて,力を借りたのです。周りの人のちょっとしたアドバイスが,突破口になりました。1人で3時間も悶々と悩んだことを人に聞いたら10分で解決した,なんてことは日常茶飯事でした。

 ただし人に聞くのは,それほど簡単ではありません。最大の障害は,無用なプライドです。人に聞くのは,ある意味で自分の能力の無さをさらけ出すようなもの。それを恥だと思わない気持ちの切り替えが必要です。

 さらに,誰にでも聞けばいいというものではありません。やはり,いいアドバイスをくれる人とそうでない人がいます。いいアドバイスをくれる人を見つけて,日ごろから人間関係を作っておく必要があるでしょう。

 残業をほとんどしなくなったのは,こんな具合に,仕事のやり方を変えたからです。残業がないことは,目の前にある仕事から解放される時間ができるということです。これは,ものすごく貴重です。

 私の場合,コンサルタントとして人脈形成に時間を使いました。もしITエンジニアとしてのキャリアを続けていたなら,技術スキルの習得に充てたかもしれません。いずれにせよ,自由になる時間を将来のために使えるわけです。これが,仕事に対する前向きな気持ちを生み出します。みなさんも,残業をなくして,仕事を楽しむゆとりを生み出してほしいと思います。

インターフュージョンコンサルティング 代表取締役会長
奥井 規晶 氏
日本IBMでSEとして活躍した後,ボストン コンサルティング グループに入社。その後,シー・クエンシャル代表取締役,ベリングポイント代表取締役などを経て,2004年4月に独立。現在,インターフュージョンコンサルティング代表取締役会長。経済同友会会員。著書に「外資の3倍速仕事術」(日経BP社),「V字回復の現場力」(ビジネス社)などがある