一度にまとめて行えば早い作業を,細切れのまま何度も行う。そんな無駄の積み重ねが残業増に結びつく。無駄な作業をなくし「残業ゼロ」を実現した三つの現場を紹介する。
本記事は日経SYSTEMSの特集をほぼそのまま再掲したものです。初出から数年が経過しており現在とは状況が異なる部分もありますが,この記事で焦点を当てた開発・運用現場の本質は今でも変わりません。 |
毎日,目の前にあるタスクをこなすことに追われているITエンジニアは,そこに無駄な作業があるとは気づきにくいもの。だがどんな作業にも無駄があり,それが残業につながっている。
そこでこのPART3ではまず,無駄な作業をなくすことで「残業ゼロ」を実現した三つの現場を紹介する。各現場が取り組んだのは,(1)バラバラに実施していた作業をまとめる,(2)会議の準備を万端にする,というもの。当たり前に思えるかもしれないが,効果は絶大だ。
修正作業をモジュールごとにまとめる
1人のメンバーの視点では気づきにくいが,プロジェクト全体を通して見ると「複数のメンバーが同じようなタスクをバラバラにやっている」ことがよくある。そんな無駄をなくすことで,「残業ゼロ」を実現した現場がある。システム・インテグレータのインフォメーション・ディベロプメントが2006年に手掛けた,金融システムの改修プロジェクトだ。
このプロジェクトは,10人のチームで,モジュール200本に対する数十の改修案件を3カ月で行うというものだった(図1)。当初のスケジュールは,「残業ゼロ」という前提に立つと,人員と納期にまったく余裕はなかった。「ちょっとした問題でも起これば即残業になるのは必至だった」と,プロジェクトを担当した林久美子氏(システムインテグレーション事業本部 SI第1部 技師補)は話す。
「残業ゼロ」にこだわりを持っていた林氏らは,対策を検討した。すると複数の改修案件で,同じモジュールが対象になることが分かった。案件ごとに改修を行うと,モジュールに対する内部調査,設計,コーディング,テストといった作業を繰り返さなければならない。「同じモジュールに対する改修をまとめて行うことで,無駄な繰り返し作業をなくせると考えた」と,臼井正広氏(システムインテグレーション事業本部 SI第1部 技師)は話す。
林氏らは一覧表を作成して,複数の改修案件で対象になっているモジュールを特定。そして同一モジュールに対する改修内容をまとめたうえで,メンバー1人にそのモジュールを一括改修させた。これにより,「スケジュールにも若干のゆとりができ,精神的に追い詰められることなく『残業ゼロ』でプロジェクトを終えられた」(林氏)。
細かな修正は改修案件にまとめる
バラバラに実施していた作業をまとめて無駄をなくし「残業ゼロ」を実現した現場を,もう一つ紹介しよう。
前出のSMSの情報システムグループには以前,大小合わせて1日30件もの修正依頼がきていた。同社が医療・介護分野の人材仲介などのために運営するWebサイトのシステム開発や保守などを担当している林成敏氏(総務部 情報システムグループ)は,「進行中の開発案件と併せて,依頼された修正作業をこなさなくてはならず,深夜残業は不可避な状況だった」と振り返る。
残業削減を目指し考えたのが,細かな修正依頼をまとめることだった。ユーザー部門から受け付けた細かな修正依頼を,一つひとつ片付けていくのではなく,実施予定の改修案件に盛り込んで一気に行うようにしたのだ。こうして作業効率を高めた結果,情報システムグループの残業はゼロ。夜間に作業をしなければならない一部のスタッフを除いて,全員が毎日18時に退社できるようになったという。