仕事柄、私は自治体職員の方とお会いすることが多いのですが、IT資産管理台帳の効果についてあまり理解されていないように感じます。第3回のコラムでも、自治体のIT資産管理台帳を作りましょうと提言しましたが、今回は、その効果についてもう少し補足したいと思います。

IT資産管理台帳はソフトの重複も発見します

 第3回のコラムでは、私の佐賀市長時代のエピソードとして、市のIT資産を洗い出したコンサルタントから、当時60台あった佐賀市役所のサーバーについて「半数以下にできる」と指摘されたお話をしました。

 IT資産管理台帳は、サーバー台数だけでなく様々な無駄をあぶり出します。例えばソフトウエアの重複も発見します。

 ある自治体でのお話です。この市では「○○メール」という防災・防犯活動に関する市民向けメールマガジンを発行しています。そのために、月に100万円前後のお金をメール配信システムの費用として支払っているそうです。

 ところが、IT資産管理台帳の作成により、別の部署が、別のメール配信ソフトを利用して防災に関するメールの配信サービスを行っていたことが判明したのです。さらに調べていくと、やはり別のメール配信ソフトを利用して、教育部門が教育に関するメールの配信サービスを行っていたのです。

 これなどは、一つのメール配信ソフトを利用すれば済むもので、三つの部署がそれぞれ別の配信ソフトを利用する必要などまったくありません。さっさと一本化すれば、すぐに税金の無駄を減らすことができます。

 また、月に100万円前後という金額もまったく高すぎます。
私は夕張市立診療所の指定管理者である医療法人財団夕張希望の杜を応援する「夕張希望の杜の毎日」というメルマガを発行していますが、メールの配信ソフトの価格はここ数年で急激に下がっています。

 読者数が少ないメルマガや携帯メールなら、月に3万円程度で十分ですし、個人情報管理の観点から自分で配信したいのであれば、300万円から500万円ほど出せば、非常に使い勝手の良いメールソフトを買うこともできます。

 ところが、前述の自治体の場合は、相変わらず事業を導入した数年前の価格そのままだったのです。

 なぜこのようなことになるかというと、自治体職員のIT知識の不足と、予算査定の甘さが原因です。いったん、新規の予算として導入されてしまうと、その後の予算査定は甘くなってしまいがちでなのです。

 兵庫県西宮市など気の利いた自治体は、携帯メールに配信する時に、安い会社のサービスを使っています。あまり職員のITリテラシーに自信のない自治体は、IT資産の見える化をしたのなら、ソフトの重複がないかどうか専門家に見てもらうようにするのが良いと思います。IT技術は日進月歩です。数年前と比べて価格が大幅に安くなっていることは多々あるのです。

SEの数が多すぎませんか?

 ハードやソフトだけでなく、SEの重複もあります。ある程度の人口規模の自治体になると、各部門が結構大掛かりなシステムを導入します。そして、その維持管理のために、SEを役所に常駐させる予算を組むことが多くなります。

 ある自治体でチェックしてみたところ、常駐SEの人数を全部合計すると100人近くになり、その人件費も10億円近い金額となっていました。そして、大変興味深いことに、半分のSEはいつのまにか勤務実態が常駐ではなくなっていたそうです。これは何を意味するのでしょうか。

  • そもそも、そんなに維持管理費を計上する必要がなかったのか?
  • 予想以上に安定したシステムだったのか?
  • 予想をはるかに下回る利用しかされていないのか?

 どれが原因かは何ともいえませんが、少なくとも常駐しているはずなのにしていないSEの予算は直ちに削減することもできますし、これまでの勤務実態を調べて、過剰に支払った分は即座に返還交渉をすべきだと思います。

議会の働きに期待します

 既にIT資産管理台帳の作成をした自治体であっても、問題がないわけではありません。ハードやソフトの重複が発見されても、各部局がすんなりとその無駄を認めるわけではないからです。

 こうした場合は、経営のトップ層が調整しないと進まないのですが、このような縦割りの調整に積極的に関与する幹部が少ないことも、残念ですが現実です。

 これから自治体の財政がますます厳しくなってきます。IT資産管理台帳の作成を働きかけることは、もしかすると議会の重要な役割かもしれません。

 昨年、ある市役所が自動交付機の調達を随意契約で行おうとしたところ、SEでもある市議会議員の方が、調達を入札で行うことを強く主張しました。結果として入札を実施したところ、半分程度の費用で調達ができました。

 IT資産管理台帳を作成し、きちんと分析すれば税金の無駄遣いが防げるのですから、議会の側から圧力をかけ、導入を働きかけてもらうのも一つのやり方かもしれないなと思った次第です。

2009年度はIT資産管理台帳の作成に取り組みましょう!

 以上、色々と申し上げましたが、IT資産管理台帳は、作成するだけで相当の費用の節約ができます。プロの指導があれば、その効果はさらに大きなものになります。

 多くの自治体では2009年度の税収は前年を大きく下回ることは確実ですから、4月になったら、IT資産管理台帳の作成に取り組んでみてはいかがでしょうか。

木下 敏之(きのした・としゆき)
木下敏之行政経営研究所代表・前佐賀市長
木下 敏之氏 1960年佐賀県佐賀市生まれ。東京大学法学部卒業後、農林水産省に入省。1999年3月、佐賀市長に39歳で初当選。2005年9月まで2期6年半市長を務め、市役所のIT化をはじめとする各種の行政改革を推し進めた。現在、様々な行革のノウハウを自治体に広げていくために、講演やコンサルティングなどの活動を幅広く行っている。東京財団の客員研究員も務める。
日本を二流IT国家にしないための十四ヵ条』(日経BP社)
なぜ、改革は必ず失敗するのか』(WAVE出版)。