昨今の経済危機を受けて,世間では盛んにコスト削減の話題が持ち上がっている。日経BPでもコスト削減にかかわる記事やイベントがあちこちから発信されている。最近では日経ビジネスで「社員はコストか」という特集記事もあった。

 筆者が所属する日経コミュニケーションでも,最近急にコスト削減関連のネタを考え始めている。例えば4月にはコスト削減に向けた取り組みに関する特集記事を掲載する。今年の3月から6月にかけては,コスト削減を軸に三つのテーマをシリーズ化したセミナーを企画している。

 このうち1回目のテーマは,「イーサネット系WANサービスの新潮流」。こう聞くと,およそコスト削減とは無縁にさえ見えるかもしれない。ただ,今の時期,世に訴えかけるにはやはり「コスト削減」を打ち出した方が効果的だろうとの考えから,今回の企画に至った。ものすごく乱暴な言い方をすれば,なんでもかんでもコスト削減に結び付けてしまおうというわけだ。

 そんなわけで,このところ,すぐに「これってコスト削減の話にならないか」と考えるようになった(その効果のほどはともかくとして)。

コモディディ化したLANでもコスト削減策はある

 例えば,もはやすっかりコモディティ化したLANのコスト削減策はないか。コモディティ化した以上,あまり余地はなさそうに思えるが,探してみるとソリューションはあるものだ。先日,NTT東日本で「ひかりLAN」というソリューションの話を聞いた。一つのキャンパスに1台だけのコア・スイッチを設置し,そこから教室などへのLANとして光ファイバ(シングル・モード・ファイバ)を引くというもので,NTT東日本ではFTTD(ファイバ・ツー・ザ・デスクトップ)とも呼んでいる。

 ひかりLANのミソは,コア・スイッチ以外はいわゆる島ハブしか使わないこと。従来,規模の大きな組織内ネットワークは,フロアを束ねるフロア・スイッチと,そのアップリンクを束ねるコア・スイッチで構成するケースが多かった。大規模なネットワークでは,その間にディストリビューション・スイッチという中型のスイッチを設置することもある。

 これに対してひかりLANはコア・スイッチ1台だけ。フロア・スイッチを多用する従来のLANに比べれば,機器代は安く済む。コア・スイッチ自体は高価な製品だが,内部的に冗長化されたものを使っているので,冗長化用に2台用意する必要がない。これも安上がりになるかもしれない。

 そして何より運用コストである。組織変更などの際,コア・スイッチの設定を変えるだけでネットワークを変更できる。わざわざフロア・スイッチの設定を変える手間もかからない。つまり,管理コストを減らせる(こういう仕組みをNTTが提供するというと違和感を感じる読者がいるかもしれないが,昔で言えばPBXに相当する通信機器を提供しているのだと考えればうなずけるだろう)。

 もちろん,新規にファイバを購入し,既設のビルに配線し直すとなれば,コスト削減どころかコストをかけることになる。ただ,運用管理のコストを減らせるのなら,スイッチのリプレースなどの機会に合わせてLANの構成を変えてみる手はあるのではないか。

新潮流の根底には発想の転換がある

 このように,発想の転換で,既に削ったつもりのコストをさらに削れる可能性が見えてくる。実は,今回のセミナーで取り上げる広域イーサネットの新潮流の根底には,こうした発想の転換があると思っている。具体的に言うと,KDDIやソフトイーサは,企業がデータ・センター中心のネットワークを構築するようになってきたことに着目し,主にコスト面からその使い方にピッタリ合う新たなWANサービスを打ち出した。

 多くの企業では昨年からどころか,この数年来ずっと,コスト削減の取り組みが続いている。そこからさらにコストを削っていくとなると,微々たるコスト削減で満足しておくか,手を付けていなかった部分のコスト削減に挑むか,本来削ってはいけない身まで削ってしまうか,ということになる。ただ,業務の在り方など(ここではネットワークやシステムのつくりや運用方法)について全く発想を変えられるのだとすれば,ユーザーにできることはまだほかにもあるかもしれない。

 セミナーでは通信事業者各社に,ちょっと無理を言って「コスト削減のヒント」になる話を盛り込む努力をしてもらうことにした。ついでと言ったら聞こえは悪いが,参加者の方々には,各社が提示するコスト削減のヒントをまとめた特典(小冊子)も配布する予定だ。読者の方々には,ぜひセミナーに参加して,さらなるコスト削減のヒントを得ていただきたいと思う。