写真1●米chumby Industries社のCEOであるSteve Tomlin氏
写真1●米chumby Industries社のCEOであるSteve Tomlin氏

 2009年1月に,米chumby Industries社のCEOであるSteve Tomlin氏(写真1)にインタビューを打診したところ快諾頂きました。Steve氏が語るchumbyのすべてを全3回に分けて紹介します。今回は最終回です。

高坂 chumbyは,200ドル弱(米国価格)の本体を購入してしまえば,以降はさまざまなウィジェットを無償で使える点が魅力の1つです。月額使用料も発生せず,強制的に広告を見させられるワケでもない。ユーザーにとっては嬉しい限りですが,一体どうやって儲けているんだろうかと逆に心配になります。chumby Industries社のビジネス・モデルはどう成り立っているのでしょうか。

Steve chumbyのビジネス・モデルは,企業が広告入りのウィジェットを配布することで成り立っています。そこで得られる広告収入がビジネスの柱です。もちろん,ユーザーに広告を強制的に見せるつもりはありません。自動車メーカーがレーシング・ゲームのウィジェットを開発してそこに新車のコマーシャルを流したり,テレビ局が番組の一部をコマーシャルとともにchumbyで公開するといった手法を採用しています。あくまでユーザーが自分で選んだコンテンツ(ウィジェット)に広告が付いてくる形です。

 ユーザーが自分の意志でウィジェットを選択した時点で,そのユーザーが興味を持っている分野や嗜好が分かるため,ユーザーが興味を持つ商品やサービスの情報をピンポイントに提供できます。

 無償のウィジェットとビジネスのリンクは,ユーザーにとってもメリットがあります。例えば,好きな俳優が出演している映画の予告編をchumbyのウィジェットで閲覧し,興味があればchumbyでその映画のチケットを直接購入できる,などです。

 chumbyに広告を出すということは,テレビやラジオなどのマス・メディアと違い,ターゲットを絞った広告戦略が可能です。これは広告主にとってもユーザーにとっても有益なのです。

 もちろん,このビジネス・モデルが成功するためには,chumby本体が普及するだけでは狭すぎます。テレビや携帯電話などあらゆる家電製品がchumbyネットワークと連携して動作することが重要になります。

 例えば,2009年1月にラスベガスで開催されたCES(家電製品の展示会)では,ソニーが自社のデジタル・フォト・フレームとchumbyを連携させて,壁にかけたフォト・フレームが目覚まし時計になったり,お気に入りのアーティストのプロモーション・ビデオを再生したりするコンセプト・モデルを発表しました。

 ソニー以外の家電メーカーも,chumbyの基本ソフトを搭載した製品の企画に着手しています。これから数年の間に「powered by chumby」の家電製品が発表されることになるでしょう。

高坂 具体的には,どんな製品が登場する予定ですか?

Steve CESの展示会場では,先のフォト・フレーム以外に,chumbyの機能を搭載したテレビや電話機が発表されていました。展示会には間に合いませんでしたが,車のヘッドレストの後部に埋め込んだ液晶モニターにchumbyの基本ソフトを搭載して,タクシー利用者向け情報端末として利用する計画も進んでいます。この例で分かるように,モニターが搭載可能なすべての家電製品にchumbyの基本ソフトとサービスを提供できます。

高坂 では,chumbyそのものが今後進化する予定はありませんか?

Steve 今のところ,chumby2.0を作る予定はありません。chumbyユーザーならご存知の通り,chumbyはソフトウエア部をアップグレードすることで進化し続けるデバイスです。液晶の輝度や使用するパーツなど細かい改善は行いますが,ハードウエアの大きな変更は予定していません。

 我々は,ハードウエア・メーカーとして在庫や流通で苦労しながらchumbyの新型端末の販売に固執するつもりはまったくありません。もし,新しいハードウエアが登場するとしたら,それはchumby2.0としてではなく,「Powered by chumby」として別の会社からさまざまな形で登場することになるでしょう。

 ハードウエア・メーカーは,既にたくさん存在します。そこに,新たな競合企業として加わるつもりはありません。逆に,そうしたハードウエア・メーカーに対し,付加価値を与える基本ソフトとサービスを提供するのが我々の目標なのです。

高坂 2008年10月,chumbyは他の海外諸国に先駆け,日本で公式に販売を開始しました。これは,日本市場で需要が大きかったからでしょうか,それとも,戦略的に日本市場を先行させたのでしょうか。

Steve まだ正式な日本語対応版を出していないにもかかわらず,日本での予想以上の反響に正直喜んでいます。2008年末には,ECサイトでの販売に加え,家電量販店での販売も始まりました。日本語版が正式にリリースされれば,さらにユーザーが増えると期待しています。

 海外の需要という点では,日本のほかに欧州諸国でも大きな需要がありました。ただし,欧州各国の言語に対応したり,各国独自の規制にそれぞれ対応したりすることを考えたとき,一国で大きな市場を形成している日本を最初の海外進出先として選びました。

 市場規模だけではありません。日本人なら,このようなガジェットを好み,その価値を理解してくれるだろうという期待もありました。日本のクリエイティブなコミュニティの間で,フラッシュというソフトウエア基盤が広く利用されていると知り,それならchumbyも受け入れられるだろうと予測しました。また,アメリカで活躍している日本のアルファ・ギークの皆さんには,かなり早い段階からchumbyのコンセプトを支持してもらえたので,彼らを通じてchumbyを広めることができると考えました。

 現在,日本語に対応したファームウエアのベータ版を公開しています。ベータ版ではUSBメモリーを使ってインストールしますが,正式版のリリース時にはインターネット+WiFi経由でアップデートできるようにする予定です。

高坂 chumbyのCEOであるTomlinさんは,もちろんchumbyをお持ちでしょう。御自宅ではどんなウィジェットを愛用していますか?

Steve 自宅には複数台のchumbyがあるので,利用中のウィジェットを全部紹介するのは難しいですねー(笑)。

 自宅に帰ると,玄関から見える書斎にchumbyを設置しています。このchumbyでは,家族や友人の最新の写真をスライド・ショーで表示しています。

 9歳になる娘の部屋にもchumbyがあります。彼女のchumbyには,バーチャルな世界に自分の分身を置いて友人のchumbyを訪問したりゲームやクエストを行ったりする「Chumby land」(写真2)や,可愛らしい動物の写真集,ファッション情報,時計などのウィジェットが動作しています。

写真2●Chumbylandの画面例
写真2●Chumbylandの画面例

 14歳の息子は,自分専用のchumbyに好みのゲームやYouTubeの面白ビデオ,スポーツの試合結果を表示するウィジェットなどを入れています。

 ちなみに私の寝室では,chumbyは目覚まし時計代わりです。タイマーでセットした時間にpandoraのモーツアルト・チャンネルの名曲を流して私を起こしてくれます。さらにその日の天気予報や交通情報を表示してくれます。

 キッチンに行くと,シンクの前の窓際に設置したchumbyでThe New York Timesのポッドキャストを聞きながらコーヒーを入れ,お気に入りのブログの最新エントリに目を通しながら子供を学校に行かせる支度をします。

 妻は,chumbyを使って子供達の写真を見たり,ポッドキャストで日本語を勉強しているようです。自宅のディナー後に私が皿洗いをする(笑)時には,chumbyで好きな音楽をかけたり,ラジオを聞いたりもしてますよ。

 もちろん,会社のオフィスにもchumbyがあります。ブログやニュース,twitter,facebookなどのウィジェットを使って友達の近況をチェックしています。本業の仕事を中断することなく,何が起きているかを「ちらっと見れる」ところが気に入っています。