生産改革などに活用するTOC(制約理論)を提唱するイスラエルの物理学者エリヤフ・ゴールドラット博士が2008年11月に新刊『ザ・チョイス』を発表した。博士に,本書で伝えたいことなどを聞いた。有意義な人生を送るためにTOCを生かせると語る。(聞き手は,西 雄大)

本書で最も伝えたいことは何か。

 意義ある人生を送るためにはどうすればよいのかだ。これまで『ザ・ゴール』などの著書を通じて,TOC(制約理論)を生産管理から会計,プロジェクトマネジメントにまで展開してきた。この私の考え方は経営分野だけにとどまらず,組織や人間をよくするためにも活用できる。つまり,人生の哲学であることを伝えたかった。

 TOCは「人はもともと善良である」「ものごとはそもそもシンプルである」という考えの下に成り立っている。シンプルに考えるために障害となっていることを取り除くという点では,マネジメントも人生も同じ手法が使えるのだ。

 人生とは選択の連続である。障害を克服できる能力を身につけると,また高い次元の選択が待っている。TOCの発想を実生活にも生かすことで意義のある人生を送れることを伝えたかった。私自身,人生経験が増してきたこともあり,『ザ・ゴール』の発刊から約25年たってまとめることができた。

確かにこれまでの著書とは異なり,手法の解説ではなく哲学書のように感じた。

 読者は第1章を読んだだけでは,「人は皆,有意義な人生を送りたい」といった常識が書かれているにすぎないと思うだろう。実は『ザ・ゴール』の時も同じ反応だった。だが,書かれている生産管理法がたとえ常識であったとしても,どれだけの企業が実践できていただろうか。

 頭で理解しているつもりであることを改めて文字として読むと,行動に結び付きやすくなるものだ。本書の構成は私の思考プロセスを娘との対話形式にすることで表現した。対話の直後に企業事例のリポートを挟むことで,読者が理解しやすくなるように工夫した。

 例えば,第2章では世界中に展開するアパレルメーカーの幹部が抱いていたSCM(サプライチェーン・マネジメント)に関する常識を取り上げた。「人気商品が品切れを起こすと機会損失はどの程度か」など様々な質問をして,問題を追究していった流れを説明している。

 小売店に毎日必要な数量を補充し,売れ行きの悪い商品を引き取る条件にすれば,毎月店頭には最新商品を並べられるという結論を導き出し,改革前の4倍となる年間純利益40億ドルという目標を達成する道筋をつけた。

 私はなぜ,当事者には気づかないこうしたことが分かるのかとよく問われる。それは科学者の視点から考えているからだろう。科学者は調和が取れている理想的な状態があると考えている。私は人間関係にもこれを応用したのだ。

エリヤフ・ゴールドラット氏
1948年生まれ。イスラエルの物理学者。TOC(制 約理論)を提唱し、問題解決手法の1つ「思考プロセス」などを考案した。著書に「ザ・ゴール─企 業の究極の目的とは何か」(ダイヤモンド社)など。

ザ・チョイス

ザ・チョイス
エリヤフ・ゴールドラット著
ダイヤモンド社発行
1680円(税込)