ユニ・チャームが開発したのは,電話や電子メール,手紙などで寄せられる消費者の声を工場やマーケティング,研究開発部門などで共有するシステムである。

 消費財メーカーにとって、顧客から寄せられる生の声は最良の情報源だ。リスクだけでなくチャンスの芽も、顧客の声の中にある。ここに目をつけたのがサニタリ用品などを製造・販売するユニ・チャームだ。

 同社のお客様相談室には年間6万件の問い合わせが寄せられる。1日約200件、多いときには350件程度だ。商品の使用方法など純粋な問い合わせもあれば、商品の改善要求、介護に関する相談、そして苦情もある。「消費者の声はリスクの発見にもつながるし、商品改良や新商品開発のチャンスにもなる」。ユニ・チャームお客様相談室の井川博規室長はこう話す。

 おむつやマスクなど、肌に直接触れる商品を製造・販売するユニ・チャームにとって、商品の不良は人命にかかわらないまでも利用者に不快感を与える場合が多い。商品不良といった苦情を放置すれば、商品のリコールにつながりかねない。消費財を販売する同社にとって、リコールはブランドイメージの低下に直結する。「消費者への対応が企業競争力を左右する」と井川室長は強調する。

 一方で、消費者からの要望には潜在的なニーズが含まれている。苦情にせよ要望にせよ、「寄せられた声を適切に処理することが欠かせない」(井川室長)のだ。

顧客窓口、工場、営業で情報共有

 ユニ・チャームが消費者の声を一元管理するために2008年4月に稼働したのが、新システム「SMILEシステム」である。

 電話や電子メール、手紙などで寄せられる消費者の声を、お客様相談室だけでなく、工場やマーケティング、研究開発部門など関係各部署で共有するのが狙いだ()。

図●ユニ・チャームは苦情も含めた消費者の声を一元管理し、社内共有を徹底している<br>苦情対応マネジメントシステムの国際規格「ISO10002」にのっとって管理している
図●ユニ・チャームは苦情も含めた消費者の声を一元管理し、社内共有を徹底している
苦情対応マネジメントシステムの国際規格「ISO10002」にのっとって管理している
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 問い合わせ内容だけでなく、各現場の担当者が回答した内容も同時に管理する。「苦情」「要望」「使用方法」といった区分で、商品ごとに問い合わせ内容の傾向を分析できる。

 商品に不具合があった場合は、消費者から当該商品を回収すると同時に、代わりの商品を送付。回収した商品を生産した工場に送り、原因を分析する。その後、調査結果を消費者に送付する仕組みだ。工場や関係部署は週次で会議を開くなどの方法で不具合の原因を調査し、対策を立てる。

 一方で商品開発のアイデアになる情報も研究開発部門などで共有する。「問い合わせから1年で新商品を開発し、実際に販売した例もある」(井川室長)。消費者の声を受けて3カ月ごとに改良している商品もあるという。

国際規格で対応の公平性をアップ

 SMILEシステムはユニ・チャームの消費者対応をより強化する目的で構築された。ユニ・チャームは06年7月に、苦情対応マネジメントの国際規格「ISO10002」の自己適合宣言を発表。ISO10002には第三者認証はなく、企業自らが「適合した仕組みを運用している」と宣言する。

 ISO10002を宣言したのは、「消費者対応の公平性、透明性を高めるのが狙いだ」と井川室長は説明する。売り上げの35%が海外であり、「国際的な基準で消費者対応を実施していることを保証するのにも役立つ」(井川室長)とみる。ISO10002の活動を補完するのがSMILEシステムという位置づけだ。

 ユニ・チャームが消費者の声への対応に力を入れるのは、「消費者の声を全社で共有し、活用しようという文化が当社に根づいているから」と井川室長は強調する。

 同じ消費者対応の仕組みを中国とタイにも展開済み。今後は台湾やインドネシアなどに広げ「アジアでナンバーワンの消費者対応」(井川室長)の実現を目指す考えだ。