サイバーエージェントの宇佐美進典取締役。同社子会社で価格比較サイトなどを運営するECナビ(東京・渋谷区)の代表取締役を兼務している

 「サイバーエージェントのビジョンは『21世紀を代表する会社を創る』ということ。当社はシステムエンジニアの数を年々増やしてきているが、このビジョンを強く意識してもらい、『この業界にこの人あり』と呼ばれるようなIT(情報技術)人材づくりを目指している」

 国内最大のブログサイト「Ameba(アメブロ)」を運営するサイバーエージェントの事実上のCIO(最高情報責任者)である宇佐美取締役はこう語る(関連記事)。同社は2006年から様々なシステムの内製化に力を入れており、アメブロを支えるシステムも現在では自社で機能強化し続けている。

 同社の言う「21世紀を代表する会社」とは、常に大きな成長をし続けるベンチャー企業であり続けると同時に、消費者や生活者から「サイバーエージェントのサービスを使って育ってきた」と言われるような会社のことだ。

 以前のサイバーエージェント社内には、IT事業やITインフラを支えるシステムエンジニアやウェブクリエーターはあまりおらず、部署ごとに点在していた。そこで2004年7月に「新規開発局」を作り、こうしたIT人材の大半を集めた。さらに2006年春からアメブロ事業の強化を主目的としてIT人材の中途採用や新規採用を積極化した。新規開発局の人数は2009年3月現在で100人を超える。

 ところが、IT人材の数が増えるに従って人事評価が難しくなった。「例えば中途採用者は採用時期によって給与にばらつきがあった。しかも、当社に多いインターネット広告代理事業の営業担当者と比べるとエンジニアは育成に時間がかかるので、営業担当者と同じ制度を使って評価するのは容易ではない」と宇佐美取締役は説明する。そこで、全社で「G職(ゼネラル職=一般職)」に加えて「P職(プロフェッショナル職=専門職)」を約1年半前に設けたのを機に、IT人材の大半をP職として評価し始めた。新卒採用の際も「エンジニア職採用」という枠を学生に明示するように変えた。
 
 さらに宇佐美取締役はユニークな取り組みも次々と打ち出してきた。例えばロールモデルになれる優秀なIT人材には、機会があれば社外で積極的に講演するよう、呼びかけている。「当社はいまだに『インターネット向け広告の代理店』というイメージが強く、技術力が際立っていると見られていない。しかし、アメブロがこれだけ大きくなった今、それを支えるインフラは最先端のITを駆使している。この点をもっと社外に告知し、認知してもらえれば、社内のIT人材の士気が高まるし、優秀な外部のIT人材も集まりやすくなる」(宇佐美取締役)からだ。アメブロの月間ページビューは2009年2月時点で73億超を誇る。

 さらに「ジギョつく」と呼ぶ新事業提案制度にIT人材もアイデアを提出するよう、宇佐美取締役は呼びかけている。エンジニアの視点とクライアントの声を直に聞いている営業担当者の視点が結びつくことで、画期的なアイデアが生まれることを期待できるからだ。

 宇佐美取締役は価格比較サイトなどを運営するECナビ(東京・渋谷区)の代表取締役を兼務している。この会社は99年に宇佐美氏が立ち上げ(当時の社名はアクシブドットコム)、2001年にサイバーエージェントに買収されたという経緯を持つ。そんな宇佐美取締役だが、藤田晋代表取締役社長CEO(最高経営責任者)のことを「ブレーキをほとんど踏むことなく、巧みなアクセル操作とぶれないハンドリングで会社を運転できる。F1ドライバーみたいな人だ。私はあんなに強くアクセルを踏めない」と尊敬している。サイバーエージェントグループでIT人材とITインフラを整える役割は、とてもやりがいのある仕事だという。

Profile of CIO

◆経営トップとのコミュニケーションで大事にしていること
・どういうIT人材が必要になっていくかという点で、(藤田CEOと)目線を合わせることを大切にしています。サイバーエージェントがグループとしてどんな事業を伸ばしていきたいか、そのためにはどんな人材が必要か、と考えるわけです

◆最近読んだお薦めの本
・『予想どおりに不合理 行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」』(ダン・アリエリー著、早川書房)
 最近、行動経済学の本にはまっているのですが、この本は特に良かったと思います

・『ローマ人の物語』『ローマ亡き後の地中海世界』(塩野七生著、新潮社)
 情報インフラのない時代にローマ帝国は広域にわたる多数の国々をどうやって統制できたのか。その仕組みは、現在の連結経営のヒントになります

・『眼の誕生 カンブリア紀大進化の謎を解く』(アンドリュー・パーカー著、草思社)
 地球ではカンブリア紀に多種多様な生物が生まれるのですが、この本ではその理由を「眼を持つ生物が誕生したから」と述べています。眼を備えたことで、死がいではなく生きた生物を食べる捕食生物が登場。すると捕食生物から逃げるために、海を泳ぐ生物、環境に合わせて体色を変える生物などが登場してきた、というわけです。この話は、インターネット上に優れた検索エンジンが登場したおかげで次々と新サービスや新技術が出てきた現状を彷彿(ほうふつ)とさせます。インターネットは、カンブリア紀と同様に、今後さらなる大きな進化を遂げるはずです

◆仕事に役立つお勧めのインターネットサイト
・ ECナビが運営するソーシャルブックマークサービス「Buzzurl」を使って、いろんなサイトに掲載されるニュースを見ています

・ニュースと同じくらい多くのブログも日々チェックしています。その内訳は、社内の人のブログと社外のブログが半々です。例えば、自分が担当していない広告代理事業の人のブログをチェックすることで、その事業では次にどんなITが必要となりそうかのヒントを得ることがあります

◆ストレス解消法
・散歩とジョギングです。平日はできるだけ毎日、会社に行くときか、会社から自宅に帰るときのどちらかを歩きます。だいたい7kmくらいあるので1時間10分ちょっとかかりますね。平日に雨が降ると、「土日に取り返さないといけない」と気がはやりますね(笑) 週末も万歩計を持って1万5000~2万歩くらいは歩きます