米国のブロードバンド・サービスが大きく変わろうとしている。これまで「使い放題」が前提だったが,データ送受信の総量規制を導入する動きが出始めたのだ。大手通信事業者が2008年夏ころから,ユーザーに対して「利用上限」を設ける試験サービスなどを開始。事業者の取り組みやその背景を解説する。

(日経コミュニケーション編集部)

 AT&TやCATV事業者のコムキャストなど米国の通信事業者が,使い放題であったブロードバンド・サービスに利用上限を導入する動きが相次いでいる。利用上限とは,1カ月当たりに加入者がアップロード/ダウンロード可能なデータの総量を制限することである。

 今のところ利用上限を導入するエリアや対象ユーザーを限定するなど,試験的な取り組みが中心だが,各社とも将来的にはエリアの拡大を視野に入れている。

一部ユーザーの帯域占有が深刻化

 最初に利用上限を導入したのはCATV事業者大手のタイムワーナー・ケーブルである。2008年6月からテキサス州の一部(Beaumont)で試験導入した。AT&Tも11月からネバダ州の一部(Reno)で試験サービスを開始。さらにコムキャストは他事業者に先駆け,試験ではなく商用サービスを10月から全ユーザーを対象に開始した。各社とも対象とするユーザーや利用上限の総量,超過対象とするデータ,超過した場合の扱いなど,内容に若干の違いがあるものの(表1),「今後トライアルを実施する市場を拡大する可能性がある」(AT&T),「ユーザーの反応を見て,サービスを全米に拡大するかどうか決定する予定」(タイムワーナー・ケーブル)など,この動きが広がる可能性があることを示唆している。

表1●米国の主要通信事業者のブロードバンド・サービスの利用上限実施状況
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表1●米国の主要通信事業者のブロードバンド・サービスの利用上限実施状況

 サービスの成否次第では,現時点で「計画はない」としているベライゾン・コミュニケーションズや中小事業者も導入に動く可能性がある。

 今回の動きは,ごく一部のユーザーが帯域の大部分を占有することへの対策が各社にとって急務であることが背景にある。実際,AT&Tは「DSLサービスに加入する上位5%のユーザーが帯域全体の46%を占有している」とコメント。タイムワーナー・ケーブルも同様の発言をしている。

 各社は,こうした事態を放置すると,ネットワーク増強のための投資が膨大になると判断。ネットワーク構築資金を負担する公平な方法として,利用上限の導入は「避けられない」などとしている。「BitTorrent」などのピア・ツー・ピア(P2P)・サービスや「YouTube」などのビデオ・サービスの利用が急増していることに各社とも頭を悩ませている実情が浮き彫りとなった。

ユーザーの8割以上は反対

 とはいえ,ブロードバンドに利用上限や追加課金を導入することに対して,米国のユーザーの8割以上が反対しているとの調査結果がある。また,ユーザー自身はどの程度のデータ量を送受信したかを把握していないケースが多いと考えられる。

 コムキャストは「(今回設定する)利用上限量は平均的なユーザーが利用する量(2G~3Gバイト)をはるかに上回るものであり,ほとんどのユーザーは影響を被ることはない」と強調している。加えて各社とも利用状況をネット上で確認できるツールを提供している。だが,ユーザーがどのような反応を示すかは不透明である。

 実際,コムキャストが2008年5月に利用上限の導入を発表した当初,上限を超過したユーザーへの追加課金(月10Gバイトに付き15米ドル)を検討していたものの,サービス開始時には「利用上限を超過したユーザーへ警告し,その後サービスを停止する」とそのスタンスを変更。タイムワーナー・ケーブルやAT&Tも開始から当初数カ月間は超過料金を課さないと見られている。