父と親子2代で川崎製鉄と語るJFEスチール システム主監の菊川(裕幸)さんの話を聞くと、基幹産業として日本を支えた鉄鋼業の歴史は、困難な道のりだったことが分かる。戦後、鉄は基礎資材として高品質かつ安価であることが求められ、鉄鋼会社はプロセスや歩留まりの改善など継続的なコスト削減に努めてきた。その後、原料の供給者の寡占化と需要家の統合により、鉄鋼業界は原料高と製品価格の低下に苦しむ。残る方法はスケールメリットを目指す経営統合のみだった。

 2001年4月にNKKと川崎製鉄の統合が決まると、新統合システム構築の辞令が菊川さんに下った。リーダーは業務系出身の菊川さんと旧NKKのシステム部長の2人。結成したチームはぶつかっても徹底的に議論し、2003年4月から毎週水曜日に2時間半の進ちょく会議を3年間続けた。

 前日までにリポートを書かせて事前にチーム間の矛盾を浮き彫りにし、その不整合を翌日に議論してまとめた。システム統合を成功できたのは、旧川崎製鉄と旧NKKという異なる会社の人が集まることを弊害ではなく価値だと考えたことだ。

課題を3軸でモデル化

 異質な知識が集まって新しい知識を生む。それを可能にしたのは、明確な目標と、意外にも、統合する会社間の摩擦ではなく、既にスパゲティ状態だったシステムを使い慣れた社員の抵抗に対応することだった。営業と技術、製鉄所を説得することは、会社改革と同様の意味を持っていた。

 そこで菊川さんは、それまでの業務の経験を生かした。課題を3軸でモデル化して考えたのだ。会社全体も、販売・生産・物流の3軸でとらえたうえで経営を考えるモデルだと思った。常に美しさを追求した。これは、製鉄所の設備建設時代に培った考え方だ。出来上がって美しいと思った設備ではトラブルが無かった。機械設備には配線と配管が必要だが、その設計を最後に持ってくると設備の形状がごちゃごちゃになり美しくない。最初に全体のピクチャーを描くべきなのだ。システム統合をブリッジシステムでは終わらせず、アーキテクチャーの設計から始めようと思った。

 異質な価値が集まり、ハイレベルなピクチャーを共有する。統合の妙味だ。

石黒 不二代(いしぐろ ふじよ)氏
ネットイヤーグループ代表取締役社長兼CEO
シリコンバレーでコンサルティング会社を経営後、1999年にネットイヤーグループに参画。事業戦略とマーケティングの専門性を生かしネットイヤーグループの成長を支える。日米のベンチャーキャピタルなどに広い人脈を持つ。スタンフォード大学MBA