経営者にとって、情報システムは頭痛の種になりがちだ。業務に必須だが投資に見合った効果が出るとは限らない。ほかの設備投資に比べて専門的で難解でもある。

 野村総合研究所で約20年間勤務した後に、人材派遣大手スタッフサービスのCIO(最高情報責任者)を務め急成長を支えた著者が、ベンダーとユーザー両方の視点から、“システム屋”の思考回路と、上手な付き合い方を説く。

 前回(第2回)では、コンビニエンスストア業界で情報システムが業界内の競争力を左右していることを紹介しました。しかし、目に見えないところで静かに情報システムが競争力につながっている例は、他業界にもあります。

 例えばホテル業では、インターネットでホテルのウェブサイトを訪れれば、サイトから空室状況や宿泊日によって変動する価格を確認でき、客室予約までできるホテルもあれば、写真だけが並び、「予約はここに電話してください」というホテルもあります。

 金融業では、銀行が合併した時、A銀行のキャッシュカードがB銀行のATMで使えるようになるまでの所要時間に差がありました。システム改修のスピードが、銀行によって違ったのです。

 連日、金融機関の巨額損失が報道されています。金融取引の損失や利益は、景気の変動だけで発生するわけではありません。株や金融派生商品(デリバティブ)の取引では、先物価格から現物価格の理論値を計算するスピードによって、売買の判断に時間差が生じ、早い判断ができた投資家が取引を実現して利益を獲得し、遅かった者は機を逸して損失を被ることがあります。この分野では「システム勝負」と言っても過言ではない状況すらあるのです。

 運輸業を見ると、ある宅配便会社では、自宅のパソコンから荷物の配送状況を知ることができますが、別の会社ではそれができません。

 あるアパレル会社は、今シーズン投入の婦人服について、デザイン・色・サイズの違いによる売れ行きの差を、売り場で売れた時のデータを用いて即座にかつ正確に把握し、迅速に生産計画に反映させることで売れ残りを減らす努力をしています。別の会社では「イチかバチか」の生産投入を行い、1年に4回、バーゲンセールで大量の在庫を処分することが慣例になっています。