いよいよ今年4月から、ITベンダーの会計処理に工事進行基準が適用される。1年以上の準備期間があったから、ITベンダーは準備万端整え春を迎えるのだろうと思っていたら、どうもそうでもないらしい。業界団体の情報サービス産業協会(JISA)が「中小企業に工事進行基準の一律適用は不適切」との意見を表明するなど、ITベンダーの現場では混乱が続いているようだ。

商慣行の近代化や経営管理能力の向上を図るはずが・・・

 工事進行基準はプロジェクトの進捗度に合わせて収益を計上する会計処理法だ。システム・インテグレーション(SI)や受託ソフト開発の会計処理では従来、プロジェクトが完了し検収を受けた段階で収益を計上する工事完成基準が一般的だった。今後は、(1)売り上げ、(2)原価総額、(3)決算日における進捗度の3要件について信頼性をもって見積もれるならば、工事進行基準を適用することが原則となる。

 そもそも工事進行基準の適用は、日本の会計基準を国際会計基準にコンバージェンス(収れん)させようという話から出てきたものだ。主な適用対象は建築や土木などの“工事”であり、SIや受託ソフト開発に適用する場合の課題や問題点はほとんど検討されることなく、一律適用が決まった経緯がある。IT業界が事の重大性に気付いた時は“後の祭り”で、否応なく工事進行基準を適用せざるを得ない状況になった。

 だが、ITベンダーが工事進行基準の適用に取り組むことには、単に新しい会計基準に対応するといったレベルを超えた積極的な意味合いがあった。上述の3要件について信頼性をもって見積もるためには、顧客との商談・契約における慣行の見直しや、見積もりの精緻化、厳格なプロジェクト管理などが不可欠だからだ。

 こうした取り組みは、顧客との商慣行の近代化やITベンダーの経営管理能力の向上に直結する。だからこそITベンダーは、工事進行基準の適用に向けて準備を怠りなく進めてきたはずだ。ところが適用直前の最近になってもなお、「原則適用」の「原則」を巡って多くのITベンダーに迷い、あるいは混乱が生じているのだ。

適用範囲は各社の“決め”の問題

 原則適用というのは、適用しない場合もあるということを意味する。四半期内で完了する小規模プロジェクトであれば、そもそも工事進行基準を適用する必要はない。工期の長いプロジェクトでも、売り上げ、原価総額、進捗度のいずれかについて信頼性をもって見積もれないなら、工事進行基準を適用してはいけない。今まで通り工事完成基準を適用しなければならないのだ。

 どんな理由があるにせよ、売り上げ、原価総額、進捗度を見積もれないというのは経営管理上の問題である。ITベンダーが工事進行基準の適用をめぐり逡巡するのは、工事進行基準を適用すべきプロジェクトのすべてで、経営管理を厳密に行う自信を持てないからだ。実際、「工事進行基準で作った決算書を作るのはリスクが高い」と告白するITベンダーの経営者もいるほどだ。

 収益を計上する以上、その収益の根拠に自信を持てなければ内部統制にかかわる問題にもなりかねず、損益計算書の信頼性が失われてしまう恐れもある。そんなわけだから、工事進行基準の適用に向けた“執行猶予期間”が過ぎ去った今となっては、ITベンダーは自らの経営管理上の課題などを見極めて、工事進行基準を適用するプロジェクトの範囲を明確にする必要がある。

 要は“決め”の問題である。できもしないのに、工事進行基準を一律適用するのはかえって危険だ。とはいえ工事進行基準の適用が原則である以上、適用すべきプロジェクトには一律適用すべく、これからも経営努力を続けていくべきだろう。冒頭の国際会計基準の話で言えば、国際会計基準そのものを日本の会計基準に採用するアダプションの議論も始まっている。そうなれば工事進行基準の適用は必須になる可能性も高いのだ。

 最後に少し宣伝をさせていただきたい。日経コンピュータでは「工事進行基準の意外な盲点」と題する直前セミナーを開催する。工事進行基準をどこまで適用するかについて今一度チェックする機会としていただきたい。開発現場の混乱回避のためになすべきことや、下請け企業をマネジメントする上で押さえておくべきことなど、他の様々な観点で直前チェックができる内容にする予定なので、ご活用いただければと思う。