フリー・エンジニア
高橋隆雄 フリー・エンジニア
高橋隆雄

 秋田県大館市が導入した500端末規模のAsteriskを使った電話システムが各所で話題を呼んでいる。2月に開催した「OSC 2009 Tokyo/Spring」における大館市の導入事例紹介と筆者のAsteriskセミナーは満席で,立ち見まで出る盛況ぶりだった。今回は普段の連載と少し内容を変え,この大館市の事例についての“見方”を解説する。

 本連載の第35回でも触れたように,秋田県大館市が500端末規模の電話システムにAsteriskを採用していた事例は大反響を引き起こしたようだ。ITproで,「見積もり2億円のIP電話を820万円で構築した秋田県大館市から学べること」という記事が掲載され,これを受けて,「2ちゃんねる」にまでスレッドが立った。しかも議論は5スレッドまで継続した。Asteriskがここまで話題になったのは日本では始めてのことだろう。

数字に踊らされてはいけない

 筆者は,秋田県大館市産業部商工課商業労政係主事の中村芳樹氏に何度もお話を伺い,実情をある程度まで知る立場にあるが,本稿で述べていることは,あくまでも筆者の観点からのものであり,大館市を代弁する立場にはないことをご理解の上,お読みいただきたい。ちなみに中村氏がAsteriskの存在を知ったのは,本連載だそうである。ありがたい限りだ。

 まず第一に「見積もり2億円のIP電話を820万円で構築した」という見出しの影響が大きかった。2億円が820万円になるということは,冷静に考えればどこかに無理があるのでは?と思える数字である。記事への反応を見ると,どうも数字が一人歩きした感がある。規模で言えば,TOHOシネマズのAsterisk導入事例も日本全国への展開であり,Asteriskと連係するレガシーPBX側の端末数も入れると規模はかなり大きい。だが,企業が導入する場合と地方自治体が導入する場合とでは,インパクトが違ったようである。以下では,“820万円”という金額を実現できたポイントを見ていこう。

最大のポイントは「自力」ということ

 今回の大館市の事例の最大のポイントは,「自力での構築」という点である。これはAsteriskに限らず,オープンソースを利用する場合に言えることだが,自前かつ自力でサーバーを構築/運用することが最も効果がある。ただし,コストという点だけを見て自力運用に踏み切ると失敗する例も少なくない。なぜならば,スキルがついてこなければ自前での運用は困難を極めるからだ。

 自前でAsteriskを導入する大きなメリットの一つは,内線電話の増設や移設を自力で行える点である。通常のPBX/IP-PBXの場合,内線電話の増減や移設をベンダー任せにせざる得ないケースが多く,そのための設定変更作業などの出費を強いられてしまう。これに対してAsteriskは,自分で設定を変更できるため,即対応が可能であり,余計なコストもかからない。このように書くと設定を変更する人員のコストがかかると噛み付く人も少なくないが,社員など組織内の人が,ほんの数行の設定を書き換えるコストをいったいいくらと見積もっているのだろうか?

 ネット上では,「内線電話500台の設定をするのに,いったいどのくらいの時間がかかったんだ」という意見もあった。これについて筆者は,「ほとんどかかっていない」と予測していた。なぜなら簡単なスクリプトを作って設定ファイルを一気に生成してしまうだけだからだ。大館市の中村氏によると,筆者の予想は正解だった。というよりも,LinuxとAsteriskを使ったシステムであれば,こうした作業をするのが当然といえる。