電子コンパスやGPS,加速度計,回転センサー,FeliCaチップ──。最新の携帯電話には多彩なセンサーが搭載されている。これらのセンサーで集まるデータを活用すれば,携帯電話が“私設秘書”のように働き,あれこれとユーザーの世話を焼く行動支援サービスを実現できる。今,携帯電話事業者はこうしたサービスの実現に向けた研究開発を開始している。その一例が経済産業省の情報大航海プロジェクトの一環でNTTドコモが中心となって実施している「マイ・ライフ・アシストサービス」。この実験サービスでは,ユーザーの行動履歴に応じて,ユーザーが欲していると推定した情報の携帯電話への配信を試みている。

 ところが,こうしたサービスには,プライバシの問題が付いて回る。「きめ細かいサービスをしようとするほど,ユーザーから多様なデータを提供してもらわなければならない」(NTTドコモ コンシューマサービス部ネットサービス企画の前田義晃担当部長)からだ。

センサー情報収集で人の状態を推測

 行動支援サービスとしては,例えば,「出発時間になっても会社の席に座っているときにアラートを出す」,「運動不足解消のために一駅歩くのを勧める」といったサービスが考えられる。

 この種のサービスを実現するためには,ユーザーの生活の中で生まれる行動履歴データである「ライフログ」の収集が欠かせない。出発のアラートでは,ユーザーの予定と現在の位置情報を知っておく必要があるし,運動不足解消のアドバイスでは,過去のユーザーのカロリー消費量やその日の歩数などを知る必要がある。そのためには,携帯電話のGPSや加速度センサーなどを使って,ユーザーがいつ,どこで,どういう状態にあるのかをモニタリングし続けることが重要になる。

 さらに携帯電話以外から収集できるデータを組み合わせられれば,サービスの幅は大きく広がる。

 ポイント・カードや電子マネーで収集される購買履歴と位置情報を組み合わせると,備忘録のようなサービスも実現できる。例えば,ユーザーが毎月特定の雑誌を購入しているパターンが見付かれば,ユーザーが書店の前を通ったときに「今日はいつもの雑誌の発売日ですが,買わなくてよろしいですか」と働きかけられる。

 各ユーザーの位置や動き,購買履歴を統計的に処理すれば,社会システム全体の効率化にも使える。今どこの場所が混雑しているかが分かれば,タクシーの効率的な配車につなげられる。ある時間のある場所に特定の年齢層のユーザーが集まっていると分かれば,効果的な広告を打てるかもしれない。

データを集めれば集めるほど個人の生活が丸見え

 ただ,ユーザーにとって便利になる,社会システムが効率化するという理由で,ユーザーの行動履歴を収集し,活用して良いかは非常に悩ましい問題である。実生活に近いデータを集めるほど,個人の生活が丸見えになってしまい,プライバシ権を侵害してしまうのだ(図1)。

図1●ライフログの収集と活用によるプライバシ侵害に懸念が浮上
図1●ライフログの収集と活用によるプライバシ侵害に懸念が浮上