前回述べたような対策をしておけば,ライフログを活用したサービスは可能になる。ただ,「あまりにも情報の扱いを厳しく制限すると新しいサービスの芽を摘むことになりかねない」(経済産業省商務情報政策局情報処理振興課の八尋俊英課長)という懸念が生じる。

経産省が実用に向け制度整備に着手

 例えば,新サービスの開発・研究用にライフログを活用する場合。試行錯誤のためになるべく詳細なデータが必要だが,抽象化したデータしか使えないのであれば,そうした解析はできなくなる。さらに,複数のライフログを集めることで新しいビジネスが生まれる可能性があるが,前述したように抽象度を高めてしまうと,実現できるサービスが限られてくる。

 そこで現在,経済産業省では情報大航海プロジェクトの中で,今後問題となりそうな制度面の課題を洗い出し,解決策の検討を進めている。2009年3月までに一定の結論を出す予定としている。

 最終的にはガイドラインの整備や法律の改正などもにらむが,その過程では国際協調に配慮する。「日本だけ違うルールで運用していると,世界で競争できない」(八尋課長)からだ。欧州や中国などのアジアと連携を取りながら,2010年3月末をメドにルール作りを進める。

総務省はライフログ提供の是非を議論

 通信事業者を監督する立場にある総務省もライフログ活用のガイドライン作りに乗り出す。2009年2月にも「ライフログを活用した事業を展開する際に必要なルール作り」を検討する研究会を発足させる。

 詳細な検討内容はこれから詰めるが,この中で通信事業者が保持するライフログを外部に提供することの是非,ライフログを外部に提供していいと判断した場合の提供条件などを検討する。2009年夏までに一定の結論を得る予定だ。

 「ライフログの経済波及効果は大きい。規制ではなく,産業の発展の視点で制度を整備したい」(総務省総合通信基盤局事業政策課の高地圭輔市場評価企画官)。2009年半ばころからライフログ活用のルールの姿が徐々に見えてきそうだ。

米国でWebでの行動履歴が議論の的に

 日本では,位置情報や購買履歴などの現実世界での利用者の行動についての議論が盛んだが,米国ではWeb上の行動履歴の収集についてプライバシが主に議論されている。

 Web上での行動履歴とは,訪れたWebページ,閲覧したコンテンツ,サーチ・エンジンでの検索ワード,オンライン・サイトでの購入した物品リストなどを収集したものを指す。米国では企業がこれらの情報を収集・解析し,ユーザーの趣味嗜好に応じた広告を配信する試みが盛んだ。ただ,Web上での行動履歴も,実世界のライフログ同様にプライバシに直結する。ユーザーの同意なく勝手に収集し,活用するのは問題がある。

 そこで米国では米連邦取引委員会(FTC:Federal Trade Commission)が中心となり,インターネットの広告配信事業者が守るべきガイドライン作りに乗り出している(図A)。2007年12月に私案を公開し,パブリック・コメントを募集した。現在,最終版に向けて作業を進めている。

 この案では,サービスの透明性確保や情報管理責任などが4項目でまとまっており,実世界のライフログ活用の指針としても役立つ。総務省と経済産業省は,このガイドライン案に注目している。

図A●米連邦取引委員会(FTC)の行動ターゲット広告に対するガイドライン案<br>2007年12月に公開した。
図A●米連邦取引委員会(FTC)の行動ターゲット広告に対するガイドライン案
2007年12月に公開した。
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