仮に,ユーザーの位置情報を1日中収集すれば,自宅,勤務先はもちろんのこと,昼食の場所,仕事での訪問先,帰宅時に立ち寄った場所などが把握できる。技術的には「自宅に戻る途中に,毎日パチンコ屋に寄っている」といった他人に知られたくない行動までを事業者側に集められる。

 ここで,ユーザーの行動履歴を活用する際のガイドラインや法令が決まっていれば,事業者はその基準に基づいてサービスを開発し事業を展開できる。ところが,今のところライフログの取り扱いについて明確な基準がない

 個人の情報を扱う法律としては「個人情報保護法」があるが,これは名前や住所,電話番号といった個人を特定可能な情報を,企業や組織が収集し利用する際の基準を定めたものである(図1)。移動履歴や購買履歴といった情報はこのデータから個人を識別できない限り,個人情報保護法の対象外となる。

図1●取り扱いがあいまいな行動履歴情報
図1●取り扱いがあいまいな行動履歴情報
個人情報の取り扱いは個人情報保護法で決められているが,ライフログについては取り決めがない。

事業者はライフログの活用を自粛

 政府や社会規範に裏打ちされた基準がないため,通信事業者としては動きようがない。プライバシの侵害によりユーザーから訴えられたり,社会的に非難を浴びるかもしれないからだ。さらに,「政府によって将来,新しい規制が作られる可能性もある」(ある通信事業者)。既にサービスを始めていて,後から規制がかかれば事業継続が困難になったり,大幅なコストをかけて事業の転換を図る必要に迫られる。

 こうした背景から,携帯電話事業者はライフログの本格的な活用には至っていない。NTTドコモは2008年11月からユーザーの好みやスケジュールに応じて情報を配信する「iコンシェル」と呼ぶサービスを開始しているが,位置や購買履歴といったユーザーの行動履歴を収集していない。配信するのは,もっぱらユーザーが登録したスケジュールやユーザーが配信を希望したカテゴリの情報である。将来は位置に応じた情報配信を予定しているものの,「位置は情報配信のトリガーとして使い,サーバー側に記録しない」(前田担当部長)方針だ。

 KDDIも「プライバシ侵害の問題を考えると,携帯電話端末からのセンサー情報をサーバー側にどこまで収集して良いのか分からない」(コンテンツ・メディア本部コンテンツサービス企画部ライフスタイル企画グループリーダーの荒井克己課長)。このため端末側でセンサー情報を解析する仕組みを模索している。