プロジェクトを円滑に進める魔法のような言葉があると言ったら,読者の皆さんは信じるだろうか。会話の最初にその枕詞(まくらことば)を付けるだけで,プロジェクトがゴールに向かって自然に歩み出す魔法みたいな言葉だ。プロジェクトメンバーがその言葉を使い始めると,現場の雰囲気がとても前向きになる。

後藤 年成
マネジメントソリューションズ マネージャー PMP


 PMO(プロジェクトマネジメントオフィス)としての重要な活動の1つは,プロジェクト関係者(ステークホルダー)と調整してプロジェクト上の問題を解決していくことです。「調整」と一言で言っても,協力的でないメンバーや,なにかと文句をつけてくる担当者,常に威圧的な上司などと調整してプロジェクトを推進するのは,実に骨の折れる仕事です。そんなときに極めて有効な言葉が「プロジェクトの成功のために」という枕詞です。

 使い方の例を紹介しましょう。普通なら「品質が悪いので,スケジュールを延期しなければなりません」と言うところを,「プロジェクトの成功のためには品質を確保しなければなりません。そのためにはスケジュールの延期が必要です」と言うのです。

 ここで読者の中には「ちょっと待てよ。ただ単に枕詞を付けるだけでよいなら『プロジェクトの成功のために,品質が悪いので,スケジュールを延期しなければなりません』になるのでは?」と考える方もいらっしゃるかと思います。しかし,両者を比較するとニュアンスの違いを感じるはずです。「プロジェクトの成功のためには品質を確保しなければなりません。そのためにはスケジュールの延期が必要です」と言う方が,ずっと前向きなニュアンスを感じ取れるのではないでしょうか。ここがこの言葉のすごいところなのです。

普段の言葉使いがメンバーの意識をも変える

 この「プロジェクトの成功のために」という枕詞のポイントは,枕詞の最後が【ために】で終わっていることです。つまり,「~のために」の後に言葉を続けるためには「~する」や「~が必要」など何らかの自分の意思表示が文末に必要になってくるのです。

 しかも「プロジェクトの成功のために」と自分で言っている以上,文末に後ろ向きなことは言えません。その結果,自分でも知らずしらずのうちに前向きな言葉を発するようになります。話の聞き手側から見ても,「プロジェクトの成功のために」と言われれば非協力的な態度は取りにくくなります。

 もう1つ,この言葉には不思議な作用があります。「プロジェクトの成功のために」とは,プロジェクトマネジャがいつも考えていることです。この枕詞を日常的に使うようになると,その人はプロジェクトマネジャと同じ視点で物事を考えたり,判断したりする癖が付きます。

 さらに,この枕詞を流行語のようにプロジェクト内に広めたら,どうなるでしょうか。プロジェクトメンバーと関係者全員がプロジェクトマネジャと同じ視点で考えるようになり,皆が「プロジェクトの成功という同じゴールに向かっている」という最高の状態を作ることが可能なのです。その結果,各ステークホルダーや各チームにあるセクショナリズムを排除でき,プロジェクトの風通しや雰囲気も良くなります。