2009年2月17日に予定されていた米国における地上アナログ放送の全面停波(デジタル完全移行)は,同年6月12日までの猶予期間が設けられることになった。オバマ大統領の誕生および提案がキッカケとなった。本稿ではその実態を追った。

クーポンの予算不足から6月まで延期

 米国では,2009年1月に予行演習としてハワイ州でアナログ放送の全面停波は予定通り実施された。しかし,経済不安下でのデジタルテレビの売り上げが減少したことと,米商務省傘下の電気通信情報局(NITA)が希望者に配布している「40米ドル移行クーポン券」が予算不足に陥り,相当数の視聴者に届いていないことが判明した。この結果,上下両院は「延期法案」を可決(一部内容を協議の上修正)した。結局,アナログ放送の完全停波の実施日まであと数日という2009年2月11日(米国時間)になって,オバマ大統領が延期法案に署名した。この結果,正式に6月12日までアナログ放送を続けられることが決まったのである。

 ここで言う40米ドル・クーポンは,コンバーター(アナログ-デジタル・コンバーターボックス)を入手るするのに利用できるものである。コンバーターは,日本でいうところの簡易チューナーに相当する。地上デジタル放送のテレビ信号を受信し,アナログSDTV信号として出力する。この結果,アナログ放送の終了後も,既存のアナログ・テレビでテレビ視聴を継続できる。この国が40ドル相当のクーポンを各世帯最大2枚まで発行することで,ボックスを普及させようという考え方だった。

図1 コンバーターボックスでデジタル放送波をスキャンする時の画面
図1
コンバーターボックスでデジタル放送波をスキャンする時の画面
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 米国では,今なお多くの世帯が世帯がラビットと呼ばれる「VHF-UHF簡易アンテナ」をテレビの上に置いて,ゴーストやノイズだらけのアナログ放送を視聴している。こうした世帯では,ラビットのUHF出力をコンバーターに入力すると,アナログSDTV信号がUHF波として出力される。テレビ側のUHFアンテナ入力端子に,コンバーターのUHF波出力端子を結線すると,テレビのUHF選局でコンバーターが出力するアナログを受信できるようになる。コンバーターをテレビにつなぐとMENU画面が出る。ユーザーの操作でコンバーターが地上デジタル放送波のスキャンを開始し,その場所で視聴できるデジタル放送のチャンネルを登録する(図1)。

 ただし,野外アンテナを設置する余裕がない場合は,たとえコンバーターを導入したとしてもデジタル放送波の電界強度が不足するケースがあるという問題を抱える。今までノイズ交じりで視聴していたアナログ放送の局全てについて,デジタル受信できるとは限らない。アナログ放送は,受信状態が悪くなると次第にノイズが増加するが,デジタル放送ではある限界を超えるといきなり映像が見えなくなるからだ。

 同様に,古いコンドミニアムやビルなどの共同受信の場合,UHFアンテナからの信号強度が充分に得られていないことがある。その改修工事費用やメインテナンス費が不況化の米国では集められない建物も少なくない。ただし,こういった建物でもケーブルテレビの配線が接続されているケースが多いのも米国の特徴である。この場合は,ケーブルテレビ局のヘッドエンドでアナログに変換された信号が家庭に届く。このため,アナログの従来ホームターミナルで放送を視聴している世帯では,アナログ放送の停波は全く意識されていないようである。