米MicrosoftのクライアントOS「Windows Vista」にはいくつも問題がある。そのために,企業では投資に見合うメリットを得られないと導入を尻込みしている。その一方で,Windows Vistaそのものの売れ行きは好調だ。何せ,発売されているほとんどのパソコンにプリインストールされているのだから。つまり,Vistaが販売されている本数のうちかなりの割合を,消費者向けが占めていることになる。

 企業がVistaの導入を急いでいないことは既にはっきりしている。事実,大多数の企業はVista導入を見送り,Windows XPを継続使用する道を選んだ。筆者はVistaを公式リリース前に導入し,今でも使っている。かつては,それなりによいOSだろうと期待していた。企業向けOSという観点で見た場合における,Vistaの問題点を10個列挙してみよう。

(10)高いコスト:Vistaの利用に必要なコストは,Windows XPより明らかに高い。Windows XPに比べ強力なハードウエアが要求され,導入時にたいていはハードウエアのアップグレードが必要になる。ところが,これは始まりに過ぎない。多くのアプリケーションもWindows Vista互換版に交換しなければならず,企業は出費を強いられる。

(9)緩慢な速度:公正に判断して,MicrosoftのOSは世代を重ねるたびに巨大化/低速化していく。というのも,売り上げを伸ばそうと「顧客の求める機能」を追加するからだ。それどころか,Vistaでは最新のハードウエアを使わないと遅くてしょうがない。Windows Vistaを構成する各モジュールはそれほどひどくないのに,全体として集まるとぶくぶく太って緩慢になる。速度向上がうたわれた「Service Pack 1(SP1)」を適用しても,この状況は改善しない。

(8)煩わしいUAC:ユーザー・アカウント制御(UAC:User Account Control)機能は理屈のうえではよいアイデアである。だが,2年以上Windows Vistaを毎日使っているにもかかわらず感謝したことは一度もない。UACに何千回も確認を求められ,煩わされてきた。セキュリティ確保は大切だと思うが,筆者はパソコン作業の生産性を最優先するためUAC機能を無効化した。

(7)機能しないことがある「Ctrl+Alt+Del」:新OSのリリース時には一部ソフトウエアで非互換性問題が起こりうるので,無反応状態になったソフトウエアを停止するためにしばしばタスク・マネージャを使う。それなのに,VistaではCtrl+Alt+Delを押してもタスクマネージャに切り替わらないことがあるのだ。皮肉なことに,ソフトウエアが無反応になったときに限ってタスクマネージャの起動もよく失敗する。

(6)消える「ネットワーク・ドライブの割り当て」:Windows XPのエクスプローラは,「ネットワーク・ドライブの割り当て」を使うであろう場面で必ず同機能が使用可能な状態になっていた。ところが,Vistaのエクスプローラは「コンピュータ」画面でしか同機能を表示しない。ドライブや下位層フォルダを開いたりすると,同機能はメニューから消えてしまう。この動作には,ユーザーもサポート担当者も悩まされいらいらする。

(5)低いモバイル・デバイスの互換性:Vistaに移行すると,多くのモバイル・デバイスをお払い箱にせざるを得なくなる可能性がある。しかも,モバイル・デバイスの買い換えは金がかかる。筆者はPDAとして米Hewlett-Packard(HP)の「Compaq iPAQ 3815」をWindows XPで快適に使っていたが,このPDAとのデータ同期機能「ActiveSync」はVistaの「同期センター」でうまく動かない。

(4)使えない「スリープ」:Windows XPのスリープ機能を改良するという発想はよかったのだが,正しく機能しないなら改良とは呼べない。Vistaで新たに登場した「ハイブリッドスリープ」機能は,信頼性が低い。スリープ・モードに入ると無反応になるVistaパソコンをたくさん目の当たりにしたし,完全に停止して真っ黒な画面だったり,ハングアップしてログイン画面のままだったりすることも多々ある。

(3)忘れてしまうエクスプローラのフォルダ設定:フォルダ設定を保存できないというエクスプローラの動作は,使い続けるにつれてイライラ度が少しずつ高まってくるVistaの問題の1つだ。普段は聞こえない時計の針の音なのに,意識すると気になり始める現象と似ている。設定内容は99%の確率で保存できるが,いろいろなフォルダでときおり失われる。

(2)不安定な無線LAN管理:Vista最大の問題の1つが,「ネットワーク接続」ダイアログ・ボックスで行う無線LAN(Wi-Fi)接続処理に存在する。SP1を適用した環境でも,保存済み接続設定を使った自動接続で失敗することが多い。自分の使っている保護されたWi-Fiネットワークを見つけるのに,更新ボタンのクリックし続けるはめになることがよくある。そして,クリックするたびに別のネットワーク・グループが表示されるのだ。

(1)ROI:企業で最も問題視されるのは,Vistaの投資回収率(ROI)が話にならないことだろう。Vista導入で負担の軽くなる作業はあるものの,それ以外はかえって面倒になる。VistaとWindows XPの間を1年以上行ったり来たりした筆者は,Vistaを使ってメリットが得られないことと,Windows XPを使って失うものがないことを知った。Windows Vistaを動かすのに余計な支出が発生することを考えると,Windows XPを使い続ける企業が多いのも当然だ。