ドイツでは携帯電話の普及率が120%を超えている。そんな中,国内3位の携帯電話事業者であるE-プルスが,定額料金制や低価格,ドイツ在住トルコ人向けなど様々な特色あるサービスを複数のブランドで展開。着実に加入数を増やし続けている。同社のマルチ・ブランド戦略を考察する。

(日経コミュニケーション編集部)

 ドイツの携帯電話市場は,人口ベースで日本の7割程度の規模ながら,現在40社以上ものMVNO(仮想移動体通信事業者)や再販事業者がしのぎを削っている。

 この厳しい競争環境の中,E-プルスは約4年前の2005年夏,1社1ブランドという既成概念を打ち破り,低料金を柱とする複数のサブ・ブランドを自社で確立するマルチ・ブランド戦略に打って出た。その後,同社の加入者数は順調に増加。2008年第3四半期時点の加入者数は約1700万である。

 E-プルスがマルチ・ブランド戦略を採った背景には,4社の移動体通信事業者(MNO)に加え,2005年当時,既に低料金を武器にする多数のMVNOなどが存在しており,競争がし烈化しつつあったことが挙げられる。さらにMNOの料金値下げ競争も激しさを増していた。

 こうした状況とはいえ,MVNOは規模は小さくてもユーザーの多種多様なニーズを反映したサービスを比較的提供しやすい利点があった。そこでE-プルスは,2005年時点で既に普及率が100%近くに達していたドイツの携帯電話市場で成長を持続させるには,ターゲット別のサービスを柔軟に提供することが得策と判断。複数の自社のサブ・ブランドによるサービス展開を主軸とした新たな販売戦略を推し進めた。

 その後,大手MNO2社もE-プルスに約2年遅れてこの動きに追随。2007年には最大手のT-モバイルが「Congstar」を,O2が「Fonic」という名称の第2ブランドを設立し,低料金サービスを開始している。

多様なサブ・ブランドを展開

 E-プルスのマルチ・ブランドは,元々のメイン・ブランドであるE-プルスに,低料金を柱とする4種のサブ・ブランドを加えた計5ブランドで構成する(表1)。同社初のサブ・ブランドは,2005年5月にスタートした「simyo」だ。GSM方式のプリペイド専用サービスで,インターネットのサイト上でSIM(subscriber identity module)のみを販売する。複雑な料金体系を一掃したシンプルな単一格安料金が特徴だ。

表1●独E-プルスと同社のサブ・ブランドの概要
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表1●独E-プルスと同社のサブ・ブランドの概要

 2005年8月にはドイツで初めて定額料金制を導入した「BASE」がスタート。2005年10月には,ドイツ在住トルコ人をターゲットにした「ay yildiz」を開始した。同ブランドは格安の国内通話料に加え,トルコ向け国際通話料金にディスカウント・レートを適用する。

 もう一つのサブ・ブランドは,若年層を狙い,通信と音楽サービスの融合をコンセプトにした「vybemobile」である。2006年9月から提供している。月額基本料に1カ月当たり10曲の音楽ダウンロード・サービスが含まれている。ユーザーは数十万曲をそろえた同社のポータル・サイトから,好きな音楽をダウンロードできる。