今回は、総合窓口の導入において自治体職員が最も頭を悩ませる「4.予算の壁」の乗り越えるためのポイントについて検討したい。

総合窓口導入の是非は長期的な視点で

 自治体の総合窓口の多くは、トップダウンによる施策として導入が進められてきた。実は、このときに効果を厳密に想定せずに総合窓口の導入を進めていたケースが多い。しかし、今日の未曾有の財政難に陥っているご時世で、政策判断上の優位性を示せなければ、例えトップダウンといえども予算をつける財政部門や予算審議を行う議会を説得することは困難である。

 財政部門や予算審議を行う議会に対して総合窓口の導入を説得し、さらに住民
への説明責任を果たすには、長期的な視点での「投資」の考え方に立ち、単年度ではなく複数年度に渡った効果を示すことが必要であろう。総合窓口の導入においては、当然それなりの初期投資が必要であり、単年度での投資回収は難しい。しかし、長期的な視野に立てば、窓口業務の改善に伴って効果を生み出すことは可能となる。

 では、総合窓口における効果とは何か。大きく分けて、行政の立場から見た「業務効率向上の視点」と、住民の立場から見た「サービス向上の視点」という二つの面から捉えると理解しやすいだろう。

行政の業務効率向上の実現

 まず、業務効率化の視点から見えてくる最大の効果は、「原課事務の効率化や省力化による業務処理時間の短縮」であろう。窓口における総業務時間が減れば、必然的に職員の人員削減の効果を生みだすことが可能となる。

 また、総合窓口の導入により、バラバラだった情報を一元的に共通管理(情報の共有化)し、窓口業務の手順を効率化すれば、本人特定にかかる時間の短縮、窓口業務での申請手続きの漏れやミスの削減、データの延べ入力回数の削減などが図れるため、時間短縮が可能となる。また、延べのデータ入力回数が大きく減るということは、職員の交付誤差などのヒューマンエラーによる住民の個人情報漏洩事故や記載ミスの発生リスクが減るということであり、結果として事故やミスの事後処理に取られる職員の業務時間の削減にもつながる。

 例えば佐賀市の場合、総合窓口の導入による窓口業務時間(業務量)の削減に伴って、市民税や保険年金に関係する部署から3人を他の部署に配置転換し、実質的な人員削減効果を生み出している。

 総合窓口の導入に取り組んでいる北九州市では、窓口業務のワンストップサービス化に伴い、住民の利便性向上だけでなく、業務改善と人員削減も目指している。同市「IT推進計画」中では、「電話受付、郵送業務、入力業務など区役所間で重複して行っている業務の集約化や業務の民間委託化を推進することにより、一層の効率化を図ります」とした上で、「区役所の組織改正と適正人員の配置により職員500人の削減を目指します」と削減目標を提示している(「北九州市IT推進計画」)。

 このように総合窓口の導入により、従来の職員の窓口業務の処理時間を短縮することが可能となり、その結果を具体的な数値で示すこともできるようになる。そのことにより、処理時間の短縮によって人員の削減や再配置が可能となるということを示すことができ、財政部門や予算審議を行う議会の説得材料となり得るだろう。

住民に対するサービス向上

 「総合窓口」の原点は、あくまで自治体が顧客目線に立ってサービスを向上することにある。窓口の業務効率の向上とそれに伴うコスト削減効果は、今日のご時世では必須要件だが、まずその前に住民にとってのメリット(効果)を示すことこそが、本来的に重要である。

 住民の目線に立ったサービス向上の視点から総合窓口の効果を考えた場合に、まず挙げられるのが、「窓口の待ち時間の短縮(窓口間のタライ回しや住民の訪問回数の削減も含む)」であろう。

 総合窓口導入前の佐賀市では、住民が窓口で転入に関する届出をしようとした場合、6カ所も窓口を回り、待ち時間は平均90分以上もかかっていた。これが、総合窓口の設置後は、1カ所・20分で済むようになった。また証明書の発行を受けようとする場合では2カ所で3証明(住民票、印鑑登録証明、税証明)を取るのに20分以上もかかっていたが、総合窓口の設置後、1カ所・5分で済むようになった。さらに3月、4月の繁忙期でも、10分程度しか待つことはない。この結果、現在では、繁忙期でも駐車場が満車になることはなくなったという。

 また別のある自治体では、窓口に関する評価指標の目標値を設定し、繁忙期において申請書を記入して受け付けられるまでの待ち時間の目標を、従来の平均50分かかっていたところを25分と定め、これを実現している。

 このような総合窓口によるワンストップによるタライ回しの解消や窓口での待ち時間の削減、さらに手続きの分かりやすさの向上により、顧客である住民が役所を訪れたときのストレスや不安感を低減する効果をもたらすことができる。

 その結果、住民の満足度も必然的に高まることとなる。例えば、佐賀市では2002年から2006年にまで毎年、繁忙期に市民からの窓口サービスに関する住民満足度調査(CS調査)を実施した。その結果、全体の90%以上の住民が窓口サービスに対して満足と回答し、住民からの評価は極めて高い結果となっている。

 また、2004年5月の連休後に総合窓口をオープンさせた埼玉県草加市では、「職員の接遇」「職員の説明のわかりやすさ」「手続きや書類のわかりやすさ」「用件が済むまでの待ち時間」「庁舎内の案内のわかりやすさ」の5項目についてのアンケート調査(「窓口お客さまアンケート調査」)を毎年実施している。その総合的な市民の「納得度」(「良い」「やや良い」と答えた割合)の結果によると、2005年度が70.8%、2006年度が78.5%、2007年度が81.0%と年々向上している。

 このように総合窓口では、従来の窓口での待ち時間に対する削減目標値を設定したり、さらに住民満足度調査(CS調査)を実施することで、常に数値目標を掲げて窓口サービスの向上を図っていくことができる。その結果、総合窓口は、導入に費やす投資に対して十分に効果があることを示すことができるであろう。

さらなる効果の引き出し方

 総合窓口と連携しながら窓口業務全般の改善を行えば、「業務効率の向上」、「住民サービスの向上」いずれの面においても、さらに大きな効果が期待できる。そうした方策を、いくつか例示しておきたい。

(1)事務手続きの共通化・標準化による業務改善
 コラム第5回で「A市の例」として紹介したように、同じ自治体内で申請時に要求する証明書は、事前に本人同意のもとで情報を庁内で共有すること(つまり、オンラインの参照すること)により、総合窓口で一元的に情報を管理し、証明書発行の窓口業務自体をなくすことができるだろう。

 また、北九州市での総合窓口の導入の中で検討されているように、窓口業務の中でも電話受付、郵送事務、入力事務など各区役所の窓口でそれぞれ扱っている同一業務を集約すれば、さらなる効率化を図ることも考えられる。この点は、自治体間で広域連携して取り組むことも考えてよいのではないだろうか。

 さらに、申請交付書を一つにまとめるのも効果的である。例えば大阪府箕面市では、これまで種類ごとに分かれていた印鑑証明、住民票、戸籍謄抄本及び市・府民税関係証明の4種類の交付申請書を一つにまとめ、多くの住民が1種類の申請書で証明書の交付を受けとれるようにした。その結果、住民は1枚の申請書で複数の種類の証明書が取得できるようになった。「住民票と印鑑証明が必要」「住民票と戸籍抄本が必要」といったような、一度に何種類かの証明書がほしいときも、住民は1枚の申請書に記入すればよい。
 さらに、住所変更に伴う国民健康保険や国民年金などの手続きでも、複写式の住民異動届書を改良し、国民健康保険、国民年金、介護保険、家庭廃物等処理の申し込みを1枚の住民異動届書に併せて記入できるようにした。この結果、特に転入の場合、住民は書かなくてはならない申請書の枚数が大幅に減り、住民の申請書を記入する手間も削減したのである(箕面市「第1期窓口改善について」)。

(2)土日開庁・夜間開庁による窓口業務のサービス拡大
 総合窓口の導入は、窓口に配置される職員のローテーションも全庁的に実施しやすい環境を生み出すため、勤務体系を変更して窓口の時間外受付(サービス時間の拡大)もやりやすくなる。

 例えば、総合窓口に窓口業務を集中化させ、人員配置のスケジュールを時間単位で管理し、ローテーションによる組織的対応を図ることによって、佐賀市では人員と残業代を抑制しつつ、繁忙期の土日・平日夜間の窓口の開庁が行えるようになった。

(3)本庁-支所の機能整理による窓口業務の効率化
 平成の大合併以前の昭和の大合併を経験した自治体で総合窓口を導入しながらも、支所の窓口の総合窓口化と統廃合が実現できている自治体はほとんどない。しかし、本庁と支所との役割分担を考慮して支所の窓口の統廃合をすれば、業務効率向上も期待される。

 例えば川崎市では、便利で快適な区役所サービスの効率的な提供を目指し、区役所と支所・出張所などの窓口サービス機能の再編に取り組んだ。区役所、支所・出張所、行政サービスコーナー、連絡所の機能と役割を見直し、住民にとってさらに便利な窓口サービスを提供できる体制づくりの検討に着手している(川崎市 区役所と支所・出張所等の窓口サービス機能再編のページ)。

(次ページに続く)