JTBや東急ハンズ、ユニ・チャームなどが相次いでグーグルの「Google Apps」の導入を決めるなど、日本のユーザー企業もいよいよクラウドコンピューティングの活用に踏み切ろうとしている。ネット上にある無尽蔵に近い処理能力やストレージの能力を取り込んで、一企業には到底作れなかったシステムを作る。そんな時代の幕が開いた。

 ファーストリテイリング業務システム部業務開発チームの森真太郎リーダーは最近、クラウドコンピューティングのリサーチに余念がない。「当社の業務への向き不向きやどんな利点があるのかを検討している」。

 店舗の国際展開と買収による事業拡大という戦略を採るファーストリテイリング。この12月にも、中国の深せんに初出店したばかりだ。

 こうした海外展開を進める上で、森リーダーはクラウドコンピューティングを有用とみる。例えば「世界各国に店舗を展開するとき必ず壁になる」(森リーダー)という夜間バッチ処理。「超大規模インフラを活用して夜間バッチをリアルタイム化できれば、利点は計り知れない」。コストの面で非現実的だった処理が、手に届くところまで来ている。「突き詰めれば基幹系システムのアーキテクチャが一変する」。森リーダーは、クラウドコンピューティングの可能性をこう表現する。

費用は半減、容量250倍

 JTB、東急ハンズ、ユニ・チャーム。いずれもグーグルの「Google Apps」の導入を決めた企業だ(図1)。Google Appsは電子メールの「Gmail」を核にした“サービス”である。

図1●日本でも米グーグルのGoogle Appsを導入する大企業が相次いでいる
図1●日本でも米グーグルのGoogle Appsを導入する大企業が相次いでいる
[画像のクリックで拡大表示]

 各社はGoogle Apps採用によって、大幅なコスト削減を見込む。例えばJTB。既存のマイクロソフトExchange Serverを更新すると、5年間の総費用は20億円かかる。Google Appsにすると「7億円から高くても9億円」(JTB情報システムの野々垣典男 執行役員グループIT推進室室長)。東急ハンズも3000万円の年間費用を半減できるとみる。

 ただし各社がGoogle Appsを選んだ理由は、単に安いからではない。無限に近いハードウエア資源、コンシューマ分野で鍛えられた強力な検索機能など、これまでのエンタープライズシステムの域を超えた利点にこそ、魅力を感じたのである。

 例えばJTBが試算したExchange Serverの移行費用20億円は、メール保存容量を100Mバイトとした場合のもの。それに対してGoogle Appsの容量は25Gバイト。半額以下の費用で、実に250倍のメール保存容量を得られるわけだ。「事実上、無制限に使えるようなもの。現場の利用者も管理者である我々も容量不足の心配は皆無になる。仮に1Gバイトとしても、自社では到底用意できない」(野々垣執行役員)。

 「データを整理するという行為自体がなくなる」。こう話すのは東急ハンズの長谷川秀樹IT物流企画部 部長だ。「必要なデータはとにかくメールで自分宛に送っておき、後はとにかく検索するだけだ」。従来も同じことはできたが、圧倒的に「安くて速い」(長谷川部長)。社員の生産性向上に大きく寄与すると判断したわけだ。