日本でもコンピュータメーカーやパッケージソフトベンダーが、クラウドコンピューティングに経営資源を投入し始めた。楽天がオープンソースを基にクラウド基盤技術の開発を進めるなど、米国に伍する動きも出てきた。SIの素材にクラウドサービスを活用するベンダーも登場し、クラウド関連ビジネスは確実に立ち上がりつつある。

 この年末、“最強のクラウドインテグレータ”が日本で事業を始動した。米アピリオ。セールスフォースのPaaSである「Force.com」を使ったアプリケーションの開発や他システムとの連携などを手がける。

 P&G、コカコーラ、ハネウェル…。同社の顧客リストにはそうそうたるグローバル企業の名前が並ぶ。実績の裏付けはForce.comでの技術力だ。セールスフォースはグーグル、アマゾンらと提携し、同社のサービスとGoogle AppsやEC2を連携できるようにしたが、この連携機能や一般の開発者向けSDK(ソフトウエア開発キット)はアピリオが開発した。Google AppsとSalesforceの情報を同期するアピリオ製ツールは、セールスフォースの販売サイトで売れ行きトップの常連である。2006年の設立以来、Force.comとERPパッケージとの連携といったSI案件も五十数件こなしている。

写真2●最強の「クラウドインテグレータ」が上陸する
写真2●最強の「クラウドインテグレータ」が上陸する
米アピリオのナリンダー・シン氏は日本市場攻略に自信を示す加価値を目指す

 創業者で技術とマーケティングを統括するナリンダー・シン氏(写真2)は、アピリオ設立前にSAPでCEO直属の戦略立案部隊に務めていた。しかしシン氏はパッケージソフトではなくSaaS、そしてクラウドに将来性を感じ、アピリオに転じた。

 「日本はカスタムアプリケーションが多い。これをSalesforceと連携するなど、Salesforceを知り尽くしている当社の実力を発揮できる有望市場だ」。シン氏は日本市場参入への意気込みをこう語る。クラウド関連事業がまさに本格化しようとしている日本のIT業界にとって、手強い存在になるのは間違いない。

口にはせずとも「やってきた」

 クラウドコンピューティングの普及を目前に、新たな競争にさらされようとしている日本のIT業界。「大変な危機感を持っている」。経済産業省の鍜治克彦 商務情報政策局情報政策課長は、率直な口ぶりで語る。データやシステムの所在を問わないクラウド時代は、競争相手もグローバルになる。「グーグル1社で日本国内の年間出荷台数をはるかに上回るサーバーを運用する時代。日本の大手ITベンダーは太刀打ちできるのか」(同)。

 一方でクラウド時代には「広大な新しい市場が広がっている」(鍜治課長)のも事実だ。もちろん日本の大手ITベンダーとて、その市場を見落としているわけではない。マーケティングに長けていないため米国ベンダーに後手を引いたが、「クラウドコンピューティングと同様の取り組みは、ずっと手がけてきた」(NECの矢野薫社長)。

 パッケージソフトベンダー、コンピュータメーカーやインテグレータ、そしてグーグルやアマゾンに対抗する基盤技術開発を目指すネット企業。日本のIT業界も、クラウド時代へ大きくアクセルを踏み込みつつある。