ユーザー企業にとってクラウドコンピューティングは、自社の情報システムが身軽になる、そしてIT部門が“ラク”をする手段となる。自社で運用するシステムとクラウド上のシステムが柔軟に連携できるようになることで、経営環境やニーズの変化に応じてシステムが素早く組み変わる。そんな新しい基幹系システムの姿も見えてくる。
「1994年当時のインターネットに似ている」。マイクロソフトのスティーブ・バルマーCEOは、クラウドコンピューティングの現状をこう分析する。94年はヤフーとネットスケープ・コミュニケーションズが創業した年だ。インターネット自体の普及は今ひとつ。しかし両社のようにインターネットの可能性を信じた企業が、相次いで登場していた時期だ。
当時、企業はインターネットをどう見ていたか。企業が仕事に利用するなど、まして企業間のビジネスインフラに利用するなど、冗談でしかなかった。対して、現在のインターネットの発展ぶりと重要性は、改めて述べるまでもないだろう。
バルマーCEOは、クラウドコンピューティングも同じ道をたどるとみる。依然として懐疑的な見方が少なくないが、いずれ企業にとって不可欠のインフラになるというわけだ。
IT部門が「ラクをする」手段
冒頭にも触れたように、エンタープライズクラウドの意義とは、ネット上の膨大なIT資源を自社システムの一部として、システムの姿を自在にデザインできるようになることだ。膨大な情報ベース、高性能なアプリケーション、巨大な処理能力を、あたかも自社のIT資源であるかのように使う。絵空事だった世界が、クラウドコンピューティングの登場によって現実になりつつある(図10)。
ではユーザー企業としてどんなシナリオでクラウドを活用し、どんな次世代システム像を描けばよいのか。
ここは、すでにクラウドへ踏み出しているユーザー企業に倣ってみよう。そのポイントは、自社の情報システムが身軽になる、そしてIT部門がラクをする手段と考えてみることだ。
まずはIT部門の負担を減らし、自社の本業を支えるシステムに注力できる体制を整える。そのうえで身軽で柔軟な次世代のシステムを企画する際の有力な手段として、クラウドを検証してみよう(図11)。
冒頭で紹介したJTB、東急ハンズ、ユニ・チャームは、まず電子メールを中心にしたフロントの情報系システムに着目。運用や保守、能力増強といった作業の運用負担を軽減するため、クラウドの利用を選択した。