本研究所では、日本と海外のIT技術およびその利用方法を比較し、両者の間にある格差について考えていく。これまでは、マッシュアップと携帯電話について、日本と海外の情報格差について考察した。今回は、情報格差から少し離れ、アプリケーション・インタフェースの裏側にあるテクノロジについて考えてみる。

 普段我々は、何気なくシステムもしくはソフトウエアを使用している。しかし、少し発想を変えると違う見方ができる。

友人が薦めたサイトに覚えた違和感

図1●ZARAのトップページ
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 ある日、海外の友人から、「ZARAというサイトをみてくれ」と言われた。彼はデザイナーであり、インターネット上にある日本のホームページが「未だ電子カタログから抜け出せていない」と常々指摘してくる人間。それだけに、彼から勧められたサイトは「デザイン性が高いサイトだ」と感じた。一方で、何か違和感を抱いたのも事実である。

 「この違和感はなんだ?」と思ったとき、そのサイトが一生懸命にコンテンツを表示しようと頑張っている“悲鳴”のようなものが聞こえたように感じた。そのときはたまたま、私も出張中で、社内からではなく、無線LANを使ってインターネットに接続していた。そのため、映像が途中でカクカク動くこと(ぱらぱら漫画のような状態)が起こっていた。

 会社に戻り、10メガビット/秒がベストエフォートの有線LANから接続したら、それらの動画は問題なく動いた。それでも、先ほどからの違和感を拭い切れなかった。

 なぜだろう?

 私は、ある意味、違和感の原因を確認したくて有線接続した。そして、やはり「そうか」と思った。動画を作り出しているFlashの動きに違和感を覚えたのだった。すなわち、このサイトでは、米アドビが提供するFlash Playerによって表示するコンテンツを読み込むタイミングを考慮して作られていないのだ。
 
 確かに、ZARAのサイトは、映像としてはすばらしいし、ホームページのデザインという意味では斬新である。しかし、最終的にPCでユーザーが見るときに問題が起きてしまっては、デザイナーの思いがユーザーには伝わらない。「表示が重くて見られないからいいや」「読み込みにいらいらする」などと、ユーザーが感じてしまってはダメなのだ。

 こうした例を挙げると、「ほーら、だからアニメーションはダメなんだ」とか「ブロードバンドで見ないほうが悪い」などと指摘する声が上がるかもしれない。しかし、筆者が指摘したいのは、そうした環境のことではなく、デザイン性とシステムの安定性は別々に考えるべきだ、ということである。

 デザイナーの前提は、より映像化されたコンテンツを使ってホームページをデザインしたいということだ。であれば、プログラマは、どうやればスムーズに動かせるかを考える。PC上で一度再生してみて、どの処理が重いかを検証し、ファイルの読み込み時や表示時にユーザーに与えるストレスを極力下げる努力をするわけだ。
 
 その結果、デザイン性が高く、かつスムーズな動きをするホームページができあがるはずではある。安易な結論を出してあきらめるのではなく、あるデザインをインターネット上で配信したいデザイナーがいる限り、それを実現するために努力することが、システムを構築する人間あるいはプログラマには求められるのではないだろうか?

 上記のような意識でシステムを構築していれば、他の人が作ったアプリケーションの裏側がなんとなく想像でき、見えてくるのである。特に、Flashのようなユーザーインタフェースにデザイン性が求められる仕事は、デザイナーとプログラマは互いの想像力を働かせ、相手の作業を緩和できる、もしくはやりやすくするための努力が不可欠である。