「工事進行基準への対応は甘くない。準備に3カ月は掛かるから,多くの企業はもう待ったなしだ」。公認会計士で会計コンサルタントの金子智朗氏(ブライトワイズコンサルティング 代表社員)は,こう警鐘を鳴らす。

 「工事進行基準」という言葉について,一度は耳にしたことがあるのではないだろうか。簡単に言うと,プロジェクトの進捗(しんちょく)率に応じてその売上を分割計上する会計ルールである。これまでシステム開発プロジェクトにはほとんど適用されてこなかったが,2009年4月以降に始まる事業年度から原則として開発を請け負ったすべてのプロジェクトで適用が義務化される。すなわち,2009年3月が年度末の企業の場合,4月以降に開始する開発プロジェクトに適用しなければならない。

 冒頭の金子氏の指摘の通り,工事進行基準への対応は一朝一夕にできるものではない。詳しくは後述するが,工事進行基準を適用したプロジェクトでは,その進捗率を,第三者が月次や決算期ごとにチェックできるように,合理性と信頼性を持って計測することが求められる。自己流もしくは大ざっぱな進捗率の管理は通用しない。そのために,企業としての仕組み作りに加えて,プロジェクトの現場での対策も必要になる。

 では工事進行基準に対応するため具体的に,企業としてどんな仕組みを作り,現場は何をすればよいのか。実は公式の会計ルール注1ではその答えは明確にされていない。さらに,JISA(情報サービス産業協会)が2008年10月に公表した「情報サービス産業 工事進行基準適用マニュアル注2」でも,重要な部分が少なからずあいまいな記述にとどまっている。

 それでも手をこまぬいてはいられない。実際,義務化まで待ったなしの状況のなか,会計監査を行う監査法人と協議しながら具体的な対応方針を固めつつある企業も少なくない。そうした先行企業を取材した結果,企業および開発の現場として,大きく三つの場面で対策が必要になることが分かった。その場面とは,「プロジェクトの受注契約」「総原価見通しの見積もり」「実際原価の算出」の三つである(表1)。

表1●工事進行基準への対策は急務
プロジェクトの受注契約,総原価見通しの見積もり,実際に発生した原価(実際原価)の集計という三つの場面で対策が求められる。企業として仕組みを整備し,それに基づいた現場での対策が必要になる
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表1●工事進行基準への対策は急務<br>プロジェクトの受注契約,総原価見通しの見積もり,実際に発生した原価(実際原価)の集計という三つの場面で対策が求められる。企業として仕組みを整備し,それに基づいた現場での対策が必要になる

 以下では,まず工事進行基準の基本知識を解説する。その上で,三つの場面に分け,先行企業の実例を基に,企業として必要になる仕組みと現場の対策を見ていく。さらに,現場のプロジェクト・マネージャとして知っておきたい二つの実用知識についても別掲記事で解説した。