ITのみならず家電製品にも使用されているハードディスク・ドライブ(HDD)は,ここ5年間で容量単価が10分の1程度にまで下がった。IT分野においては,データ保護のセカンダリ・ストレージとしての用途にまで利用範囲が大きく広がっている。そのため,格納するデータの用途やライフサイクルに合わせて,HDDの容量,性能,信頼性,コストを最適化することが求められている。これらの仕様を正しく読み解くために,HDDの内部をのぞいてみよう。なお,本講座は2006年に公開した「【初級】知っておきたいストレージの基礎」を基に,2009年の状況に合わせて加筆・修正した改訂版である。

吉岡 雄
日本クアンタム ストレージ

 ハードディスク・ドライブ(HDD)は,現在,市場で最も利用されているストレージの代表格である。最近の劇的な低価格化により,HDDはバックアップ・メディアとしても利用されるなど,その用途は多岐にわたっている。

 HDDといっても様々な種類があり,入出力性能を重視したハイエンド・モデルから大容量・低価格モデルまで,目的・用途に合わせて選ぶことが可能である。選択時の主なポイントは,(1)容量(記録密度),(2)入出力性能,(3)信頼性---である。この3つのポイントは,カタログの値からある程度判断できるが,その意味するところは意外に奥深い。今回と次回の2回にわたり,これら3つのポイントを理解する上で不可欠となるHDDの基本的な内部構造と,HDDの特性を理解する上で重要なスペックの意味を解説していく。

ディスク回転に伴う空気流で磁気ヘッドが浮上

 初めに,HDDの基本的な内部構造と各部の名称を押さえておこう(図1)。データは回転する「ディスク」の上に記録され,それを読み取る(あるいは書き込む)のは「磁気ヘッド」である。磁気ヘッドは「アーム」の先に取り付けられ,アームには磁気ヘッドを適度にディスク面に押し当てる「サスペンション」が付いている。磁気ヘッド,サスペンション,アームの3つが一体化された「ヘッド・アセンブリ」が円弧を描くように走査(シーク)して,先端の磁気ヘッドがディスク上のデータにアクセスする。

図1●ハードディスク・ドライブの内部構造
図1●ハードディスク・ドライブの内部構造
ヘッド,サスペンション,アームが一体化したヘッド・アセンブリがディスク上をシークすることで,データを記録したり,読み取ったりする。写真はノートPC向けのHDD

 HDDを横から見ると,実は数枚のディスクが積み重ねられていることが多い。これに合わせてヘッド・アセンブリも積み重ねられ,複数のディスクの間に「くし状」に挿入されている。ヘッド・アセンブリとロータリー・アクチュエータを合わせた形状がアルファベットの「E」に似ているため,ヘッド・アセンブリを「Eブロック」と呼ぶこともある。

 ディスクが回転すると,その表面には回転方向に空気流が生まれる。磁気ヘッドはこの空気流に乗ってディスク面からごくわずかに浮上し,磁気信号をディスクに記録する。ディスクの両面には磁性層膜が形成され,この層の上にヘッドがデータに応じた磁化のパターン(N極とS極の配列)を記録する。記録されたデータを読み込むには,ヘッドで磁性層膜上に記録された磁化のパターンから磁界を検出し,データを再生する。

 ディスクを回転させるのは「スピンドル・モーター」である。現在,毎分5400回転から1万5000回転が主流となっている。HDDには,使用目的によって異なる回転数のものが存在する。一般に,回転数が高いHDDほど高性能かつ高機能である。

 こうした基本構造を押さえた上で,容量(記録密度),入出力性能,信頼性を支える要素を見ていく。